「女の花道」心と表現<第14回>熊澤南水|月刊浅草ウェブ

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月刊浅草ウェブ

〝凄い!凄い!〟を連発して帰り、気持が気持ちがさめない内に実行に移したのである。
公演は、大成功であった。
水を打ったように静まり返った場内に、1本キーンと張られた、緊張の糸が終始切れる事は無かった。
長野県は温泉天国である。ゆっくり温泉に浸って疲れを取って……と いたいところを、直ちに帰京、明日は沖縄へ出発しなければならない。沖縄公演の日程は、1年前から決まっており、今回も23日にと連絡を受けた時は、変更出来ないかと頼んではみたのだが、他の日は全て埋まっているのだと云う。確かに農家の方達は、冬の僅かな間だけが時間の取れる貴重な季節、故に催物が山積しホールの空きは、この時点で23日しか無かったのだと云う。
年齢を考えれば、しかし危険な賭けでもあった。
空港に降り立った時の気温は16度、小雨模様で現地の人達は〝寒い!寒い!〟を連発、昨日の上田とその差24度の中に身を置いている自分を考えながら、タクシーに乗り込みホテルへ。
27年目を迎えている恒例の沖縄公演は、今年も小・中学校を始め各地でのサロン公演、そして最後は2月4日普天間基地を見下ろす、北中城村「あやかりの杜」での舞台公演と、約2週間の滞在となったが、今年は加えて「お祝いの会」を開いて下さるグループもいくつか入って、幸せな時間を過ごして帰ったのである。
翌、2月6日㈪が、明治記念館での受賞式であった。
平成3年日本文化振興会から頂戴した「国際芸術文化賞」の受賞式、祝賀会場もここ明治記念館だった。
何よりも5、4年前、第二の人生へ船出の結婚式を挙げたのもここだった。前日までの台風が嘘の様に去った秋晴れの一日、晴れ女の異名はこの時からあったのだろうか。
古めかしい玄 を一歩入ると、文化庁の職員がそれぞれの役目に従って誘導して下さる。
「熊澤さんですね、お待ちしておりました」と、一人の女性職員が気づいて来られ、「事務局のSです。どうぞこちらへ」と、エレベーターの中へ。
大衆芸能部門の審査員は7名である。万一、審査当日欠員が出た場合は、事務局がそれを埋めることになっているらしい。私の場合もそれに該当し、当日Sさんがその役目を果して下さったのだ。受付に名刺を残して下さったので、私はすぐそれを思い出した。
受賞者受付カウンターで名を名乗り、赤いバラの勲章を受け取った。別室で贈呈式の作法、そして祝賀会への流れを伺い、やがて開式。
文化庁長官はじめ、関係者が揃って迎えて下さる。
受賞者一人に対し4名まで同伴が許されており、演出の梶本先生はじめ、私の関係者も既に着席している。
文部科学大臣代行の方が、壇上でひとりづつ賞状を手渡して下さる。
祝賀会は、和やかに立食パーティーとなっており、受賞者同志の名刺交換風景がそこここで見られた。
「おめでとう!良かったね。」
一人の男性がニコニコしながら近づいて来られた。
名刺をお出しにはならなかったので、咄嗟に胸に下げている名札に目をやった。今回の審査員のおひとりW先生と解った。
「ありがとうございました。何んとお礼申しあげて良いやら……良く拾いあげて下さいました」
この日、大衆芸能部門の審査を担当して下さった4名の先生方が参加していて、皆さんから温かいお言葉を掛けて頂いたのが、何よりも嬉しかった。
祝賀会では、各部門毎の受賞者が揃って登壇、代表に選ばれた一人が、感謝の言葉を伝えることになっているが、大衆芸能部門でも私が指名された。
優秀賞の古今亭菊之丞さん、新人賞の柳家東三楼さん、お二人にはこれからも更に上を目指して 張って貰いたいを付け加え、短かいお礼のことばとしたのである。
立食パーティーの丸テーブルに、演劇部門で大賞を受賞した、能楽の梅若万三郎氏とその一門の皆様と同席となり、私が挨拶を終えて戻るとすぐ夫人が、「同じテーブルに付いたのも、何かのご縁かも知れません。これを機に何卒よろしくお願い致します。」と、名刺を差し出しながら声を掛けて下さったのである。
「こちらこそ」、と私もあわてて名刺を取り出し、雑多の中で「能と朗読」と云う、新しい試みに話が転じたのである。 
金沢で室生、矢や来らいで歓世、お二人の能楽師との共演は体験しているが、梅若氏との舞台も実現は可能かも……。新たな夢の人生となった。
朗読、語りを目指す人達が、近年増々多くなっている中で、今回私の受賞は大きな指針になり、又、勇気を与える事になっただろう。それだけでも頑張ってきた甲斐があったと自負している。
何よりも、私自身が天職だと思い、続けて来られて幸せだったのだから。

熊澤南水 プロフィール
朗読家。
1941年東京生まれ。小学6年生のとき青森県西津軽から東京に移り、そこで津軽なまりを笑われたのが言葉へのこだわりの第一歩だった。
40歳のころ、偶然手にした一本のテープ、朗読家 幸田弘子さんが語る樋口一葉の十三夜が心に新たな、風を吹き込み、言葉への想いをつのらせた。以来、俳優 三上左京氏指導のもと、“南水ひとり語り”を全国各地で繰り広げている。
浅草の洋食ヨシカミの元女将が語りの世界で彩る。
◉女優 吉永小百合さんとともに下町人間庶民文化賞を受賞
◉文化庁芸術祭大衆芸術部門優秀賞を受賞

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