「北野武(ビートたけし) 前編」フランス座のエレベーターから始まる天才たけしの快進撃!<第11回>浅草六区芸能伝|月刊浅草ウェブ

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北野武, ビートたけし

東洋興業会長(浅草フランス座演芸場東洋館) 松倉久幸さんの浅草六区芸能伝<第11回>「北野武(きたのたけし)①」

前回は、『伝説の浅草芸人』と呼ばれた稀代の天才コメディアン・深見千三郎が、最後にして最愛の弟子となる青年・北野武(ビートたけし)と、フランス座のエレベーターの中で出逢ったところまでをお話しましたね。

北野武(きたのたけし)は、昭和22年東京生まれ。下町情緒漂う足立区島根で、典型的な職人気質の父と厳格な母のもと、四人兄弟の末っ子として育ちました。小さな頃から利発な子で、教育熱心な母の影響もあり小・中・高と成績優秀、大学も明治大学工学部に現役で合格しました。
しかし、時は学生運動も終息に近づきつつあった昭和40年代半ば。時世に飲み込まれ、行く手を見失った多くの学生達と同様、彼もまた道に迷い、大学を離れて、無力感に苛まれながらあてどない暮らしを送っていたそうです。
“俺は一体、何をしているんだろう…”
苦しみ抜いた彼の頭に、ある日突然、突拍子もない考えが浮かびました。
“そうだ、浅草へ行こう。あの街で、芸人になろう!”
どうしてそんなことを思いついたのか解らない、と後に本人も述べていますが、極限まで追い詰められた人間の直感というのは、案外正しいのかも知れません。 
なぜって、もしもその直感に従っていなかったら、浅草フランス座に来ることも、深見の愛弟子となってその豊かな才能を開花させることも、なかったわけですから…。

昭和47年の夏、浅草にやって来た25歳のたけしは、フランス座の門を叩きます。ところが、あいにく芸人も社員も間に合っており、あわや門前払いか…というところ、不憫に思ったチケット売り場のおばちゃんが助け船を出してくれ、なんとかエレベーターボーイとして滑り込むことが出来ました。おばちゃん、大恩人(笑)!
そして、冒頭の出逢いです。
威厳に満ちた深見千三郎は、たけしにとって近寄りがたく、深見のほうもまた、新入りのエレベーターボーイなど、まったく意に介していない様子。しばらくは挨拶をするだけで精いっぱいでしたが、ある日、意を決して懇願します。
「深見師匠、僕は、コメディアンになりたいんです。どうか、弟子にして下さい!」
「…じゃあお前、これを覚えてやってみろ。」
そういって深見は、唐突にタップダンスのステップを踏み始めました。〈にわか芸人志願の若造など、どうせ長続きするはずがない、適当にあしらっておこう。〉弟子入りしては辞めてゆく若者をゴマンと見てきた深見は、そんな風に思ったのでしょうね。
しかし、たけしは違っていました。深見の言葉を真に受けて猛練習し、複雑なステップをしっかりモノにしてしまったのです。そして次のステップを教えれば、これも完璧に覚えてくる。次も、また次も。その飲み込みの速さと生真面目さに舌を巻いた深見は、こいつは見所があると踏んだのでしょう、ある日、急病を患った芸人の代役として舞台に立ってみろと、たけしに声を掛けたのです。
フランス座に来て以来、仕事の合間を縫ってはこっそりと憧れの深見師匠の舞台を扉の間から覗き、その芸を頭に叩き込んでいたたけしではありましたが、今日の今日、いきなり舞台に上がれと言われても、嬉しいやら、恐ろしいやら!しかし、やっと巡ってきたこのチャンス、いいところを見せて、何としてでも認めてもらうしかありません。
 
演じたのは、オカマの役。右も左も解らぬまま、自身で施した舞台化粧。いかにもおどけた感じの派手なメイクを一目見るなり、師匠の怒声が飛びました。
「バカヤロウ!舞台というのは、奇をてらった化粧だの衣装だの、そんな小手先で見せるもんじゃない、芸の力で魅せるもんなんだよ。覚えとけ!」
そんなこんなで、滾々と説教されつつも、精いっぱい勤め上げた初舞台。深見はこの時、彼の才能を確信したようです。北野武を正式に芸人見習いとして預かりたい、と私に申し出てきたのは、それから間もなくのことでした。

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東洋館〜浅草フランス座劇場〜

歴史あるフランス座(ふらんすざ)の名前でも有名な東洋館。正式名称は「浅草フランス座演芸場東洋館」です。
現在はいろもの(漫才、漫談など)を中心とした演芸場。建物を同じくする姉妹館・浅草演芸ホール(落語中心の寄席)とともに、歴史ある浅草お笑い文化の一角を担う存在と自負しています。「浅草フランス座」以来の伝統を受け継ぎつつ、新しい「お笑いの発信基地」でもある当劇場へのご来場を心よりお待ち申し上げております。
浅草観光の際には是非ご利用ください。


東洋館〜浅草フランス座劇場〜公式ページ