<其ノ九~子供のように無邪気な御大・村田英雄~>
実のところ村田のオヤジとは、いつどこで出逢い、なぜあれほど親しくなったのか、良く思い出せない。もっとも、そんなことはどうでもよくなるくらい、いつの間にか大切な人になっていたということなのだろう。
素顔の〈村田英雄〉は、天真爛漫な子供がまんま、デカくなってしまったような(笑)、愛すべき人柄だった。
ある時、郡山・磐梯熱海の「磐光パラダイス」で公演中の私に、オヤジから電話が入った。
「おう、竜坊!今やってるお前の舞台、佐山俊二も出てるそうじゃないか。そんな大物を呼べるほど立派になって…俺は、嬉しいぞ!いま会津若松まで来てるんだけど、これからそっちに行くから、二人で飲める場所、とっとけ!」
ひなびた田舎に唯一、「出世街道」という小さな飲み屋はあるけれど、座敷といえば四畳半一間。それでもオヤジは、満面の笑みで現れた。
三波春夫からの還暦祝いだという立派な巻手紙をおもむろに取り出すと、開口一番、オヤジは言った。
「おい、ここを見ろよ。“村田英雄大兄(たいけい)”と書いてある。遂にあいつは、俺の勝ちを認めたんだ!俺は今まで三波にだけは負けたくないという一念で頑張ってきた。その思いが報われて、嬉しくて仕方ないから、お前と飲みたくなって来た‼」
…要するに、それを言いたい衝動を抑えきれなくて、わざわざ2時間もタクシーを飛ばして郡山まで来たのだ(笑)。せっかくの歓びに水を差すようだが、しかし…。
「悪いけどね、オヤジ。“大兄”っていうのは大体、同等の人に対して使う言葉だと思うんですけど?」
「な、何?!俺の方が偉いって認めたわけじゃ、なかったのか…。いやぁしかし、あちこちで喋って恥をかく前に竜坊に言って、良かったな~!」
歌については天才的だが、芝居の方はからっきし(笑)。新宿コマでひと月共演した時など、本番前から酒を飲まされるわ、いくらきっかけを出しても舞台に出てこないわ、座長でありながら、見せ場の立ち回りを殆ど私に丸投げにするわ…もうしっちゃかめっちゃか、世話が焼けるオヤジ〈村田英雄〉だった(笑)!
>次ページに続く「「いつか村田のオヤジが亡き人になった時には俺、あんたを“オヤジ”って呼ぶことにするからね。」