第22回「天健(てんたけ)~天麩羅専門店~」
伝法院通りを六区方面へ抜ける五差路の一角に店を構える、昭和21年創業の「天健」。地元の方々や観光客はもちろん、全国各地から多くの常連さんが訪れる名店です。公会堂や演芸ホールにほど近く、小劇場も多く立ち並ぶ地区だけに、休憩時間を設けず通しで営業しているのも、粋なはからい。10時半と早めの開店から、終日客足が途絶えることはありません。
暖簾をくぐるなり、鼻を擽る何とも言えず香ばしい揚げ油の香り。早速に食欲を刺激され(笑)注文したのは、かき揚げ定食とかき揚げ丼。いずれ劣らぬ、天健の二大看板メニューです。
まずは、かき揚げ定食から。高さ10センチはあろうかという大迫力のかき揚げは、富士山のイメージ。頂上にそっと箸を入れると、熱々の衣から顔を出したのは、溢れんばかりのエビ、イカ、ホタテ!しっかり火が通っていながらもジューシーな具材と、いささかも油っぽさを感じさせないサックサクの衣、そしてほのかに香る名脇役、三つ葉のシャキシャキ感が相まって、絶妙なアンサンブル。擬音表現ではなく、本当に”サク、サク”という音を聞いたのは、初めてかも!軽やかな食感に、どんどん箸が進みます。
さてさて、お次はかき揚げ丼。定食とほぼ同サイズのかき揚げが大胆に乗っているので、どんぶりの蓋は半開き。ぱっくりと口を開けた二枚貝のような、ユニークな盛り方が印象的です。
揚げたての衣にじゅわっとしみ込む秘伝のタレは、甘めながらもしっかり醤油が主張する、江戸らしいきりりと引き締まった味。甘みのあるお米との相性も最高です。定食・丼ともに、絶妙なバランス感覚と味のセンスの良さが光る逸品でした。
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