“ところでまい子さん、まさか一人で全部たいらげたの?!”ですって?・・・いえいえ、いくら私が食いしん坊でも、それはさすがに(笑)。なんたって、若い男性でも満腹・大満足!というボリューム感なのですから。でも、心配はご無用。食べきれなかった分は、きれいに箱詰めし、丁寧にタレまで継ぎ足して、快くお土産用に持たせて下さいました。衛生上の問題等からお持ち帰り不可の飲食店も増えている昨今、“食べ残すのが申し訳なくて”と、つい躊躇してしまいがちな小食の女性やご年配の方も、安心してご来店下さい。
この日最初のお客様は、福島からの常連さん。はるばる青森から、車いすで度々訪れて下さる方もいらっしゃるそう。他にも、天健には遠方からのお客様がいっぱいです。それはきっと、料理の腕は言わずもがな、店主・吉田栄吉さん(78)のお人柄ゆえなのでしょう。来客の絶えない中、天婦羅を揚げる手を休めることなく、嫌な顔ひとつせずカウンター越しにインタビューに答えて下さいました。決して口数が多くはないけれど、素朴なあたたかさが伝わって来ます。実は、もっとお聞きしたいことが色々あったのですが(笑)、お話を伺っているうちに、“沢山の質問はもう、必要ないな”という気持ちに、自然となってゆきました。天健の魅力は、食材の産地がどうの、技法がどうの、というところにあるのではない。余計なうんちくは、一切不要。吉田さんの誠実な仕事と、この味と、長年にわたって遠路遥々訪れて下さるお客様たち。それらが、すべてを物語っているな、と素直に思えたのでした。
『浅草に行くなら、寄りたい店』ではなく、『天健に行きたいから、浅草へ』。天健とは、つまり、そういう店なのですね!
(「月刊浅草」編集人 高橋まい子)
追記:「天健」は、残念ながら閉店いたしました。全国からのお客様のみならず、六区の芸人たちにも愛された浅草らしいお店を、記憶にとどめていただければと思います。
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