「沢 竜二(さわ りゅうじ)」の波乱万丈俳優記<第13回>月刊浅草ウェブ

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<其ノ十三~ミヤコ蝶々先生と舞台を共にした日々~>

ミヤコ蝶々先生との出逢いは、昭和52年、梅田コマ劇場での舞台『河内の女』だった。当時多忙を極めていた私は、初顔合わせの日に間に合わず、1日遅れて現地に入った。ところが、これが逆に功を奏したらしい(笑)。
「沢さん、あんた、得な人間やなぁ!」
蝶々先生は、共演者の山城新伍船戸順のいる前で、開口一番、こう言い放った。
「昨日、この二人からさんざん聞かされたで。沢竜二には、女性ファンが多いんやてな。今の東京で石を投げたら、沢ファンに必ず当たるやろうと。歳はとってても、私かて女や。だから今日は、あんたに会うのを大いに期待して待ってたんや(笑)!」

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早速その晩、我々三人の男や白木みのるを連れて、大阪ミナミにある有名なゲイバーに招待してくれた。ところが2件目は、カラオケボックスと言い出したのだ。
「あの役者は上手いとか下手とか、人のいる所で喋ったら、その陰口を下手な役者は怒る。ヘタなくせに!カラオケボックスやったらこの5人しかおらへんから、堂々と喋れる。だからここなら、安心やろ(笑)!」
その言葉を聞いて、蝶々先生とは〝周波数〟が合うと感じた。先生も同じ感覚だったのだろう、本当に可愛がってくれたものだ。共演中は舞台が跳ねると毎晩飲みに誘ってくれたが、行く先が、いつもゲイバーばっかり(笑)。
「あの~、私はオカマより、女の子のいるところに連れて行って欲しいんですけど…(笑)!」
ある夜そう言ったら、蝶々先生、
「じゃかましい!」…と。

ある時、高田浩吉さんから嬉しいオファーが舞い込んだ。高田さんといえば、私が子供の頃から心酔する鶴田浩二さんの師匠!しかも依頼は、高田さんの当たり役・伊豆の佐太郎のカッコイイ用心棒。映画版で岡譲司さんが演じ、私もいつか演ってみたいと憧れていた役柄だ!

高田さんには、とても良くして頂いた。既にご高齢だったのもあるが、立ち回りの見せ場の殆どを私に任せてくれたり、私の相手役の三女・瞳ちゃんにせがまれ夕食をご馳走すると、必ずお礼にと、楽屋に差し入れを届けてくれたり。公私に渡り紳士的な、学ぶところの多い大先輩だった。

その時の高田さんの舞台は、第2部がミヤコ蝶々ショー。蝶々先生は、歌も達者なかたなのである。私は、先生のご指名により、ショータイムにも出演することになった。曲目は確か、『銀座の恋の物語』。タキシードでばっちり決めて袖に待機していたのに、先生は前振りで私の悪口ばかり言う(笑)。所詮モテる男は信用なりません、うちの亭主と同じです、とか何とか(笑)…。よし、ここは私も気の利いた返しをせねばと、不貞腐れて出て行って、
「先生、そんなら私は、スペアですか⁈」
客席は大爆笑。すると翌日、先生は、
「それではデュエットの相手、スペアの登場です(笑)!」
ここで客席は、どっと大爆笑。1つ言えば1つ跳ね返ってくる、その絶妙さ!芝居以外の部分でも、芸人として、あらゆることを勉強させて頂いた。

最後の共演となったのは、平成5年、道頓堀の中座での『老後が来よった早よ逃げよ』。人生の悲哀を笑いを交えて見事に演じ切る様は、女優・ミヤコ蝶々の真髄を余すことなく表現した、渾身の作だった。

この作品は、蝶々先生が亡くなられた折、NHKで追悼公演として全国放映された。録画を見返す度に思う。先生は、私を大々的に売り出す為に、あんな素晴らしい役を下さったのではないかと。私が演じた三之助(ミヤコ蝶々扮する髪結・床山の居る芝居小屋の花形座長)は、前半で一番脚光を浴びる、事実上の主役であった。沢を全国的に売ってやろうと、天国で思った先生のプレゼントだと、今も信じている。

この歳になって思うのは、現在の自分があるのは、今迄出逢ってきた器の大きな人生の先輩方が、自身のことは差し置いて、後輩の私に華を持たせる場面を多々作ってくれたおかげだということ。その温情が、喧嘩っ早い若造だった私を、いつしか仲裁に廻る側の人間にまで、育ててくれたと思うのだ。余談だが、間違いを犯した後輩に、一緒にヤクザに詫びを入れて芸能界に戻してやると親分風を吹かせた時も、本物の〈親分〉の温情に、救われたっけ(笑)。

・・・とまぁ、そんなこんなで多くの人に助けられ、育てられながら芸能界を生き抜いてきた私だけに、先輩方の恩に報いるべく、今度は自分が後輩たちを引き上げねばという使命感が、常にある。今はこのコロナ禍に際し、食うや食わずの若い役者連中に何をしてやれるかと、模索中だ。
             
近頃舞台の話題が多かったので、次回は少し流れを変えて、映画「瀬戸内少年野球団」で共演した岩下志麻渡辺謙ちあきなおみとの交流について。・・・ちあきなおみ、聞きたい(笑)?

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