つれづれの記<第8回>田中けんじ|月刊浅草ウェブ

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《人世は一喜一憂・・・。》

7月16日昼のNHKニュース。西洋美術館世界遺産推進協議会委員、石山和幸氏の生々しい声が届く。「トルコイスタンブールのホテルにいます。深夜から戦闘機が低空を飛び爆発音が響きます。世界遺産国際会議中にクーデターとは信じられません!」
予想外の政情混乱に直面したユネスコ審議委員会は、即刻「世界遺産会議」を中止した。再開の見通しは立たない。苦節10年2度の却下を乗り越え登録を目前にして予期せぬ事態。石山さんはガックリ肩を落とした。大田区儀長ら8人を送り込んだ台東区も、人命尊重を優先し全員に即刻帰国指示を出した。

>次ページ「国際文化観光都市台東区の魅力や素晴らしさを世界に発信してまいります!」

―各社報道によると、軍部反乱分子によるクーデターの動きを察知したエルドアン大統領は、滞在先のトルコ南部の保養地を離れた直後爆撃があり間一髪危機を逃れた。スマホから国民に無事を伝え、外に出て反乱分子に抵抗するよう喚起を促した。民衆は街頭に繰り出し勇敢にクーデターを起こした兵士や戦車に立ち向い、その結果何百人もの犠牲者を出したが政府軍が形勢逆転、1日にして反乱分子を鎮圧した。

―状況を見守っていたユネスコ世界遺産委員会は安全を確認。「翌17日会議を再開する」と表明した。帰国の途につこうとした台東区の関係者は踵を返し会場に戻る。
日本では同時刻、台東区役所に服部征夫区長、馬淵明子館長、宮田亮平文化庁官ら100人がインターネット中継で会議を見守った。午後5時14分議長の映像と音声に通訳の女性が『採用されました。』と登録が決まったことを告げると歓喜に包まれた。現地の石山さんはため息と共に嬉し涙が止まらなかった。
21日地元アメ横商店街では記念式典のレッドカーペットが敷かれ、区長ら関係者がくす玉を割って区民に樽酒が振舞われ誕生を祝った。服部区長は『都内で初めてとなる世界遺産が台東区に誕生した意義は大きい。登録を大切に守り、将来につなげていくことが重要だと考えています。そして国際文化観光都市台東区の魅力や素晴らしさを世界に発信してまいります。』と強く語った。

・・・二転三転、世界遺産の歴史上例を見ないクーデター騒ぎの中で劇的に登録されたル・コルビジェの建築群。『西洋美術館』に万感の思いでグラスを傾け余韻に浸っていた1時間後、浅草誌・高橋まい子編集員から緊急連絡。「東京宣商小島康会長(冒頭写真)が逝去されました。」
世界遺産登録を見届けたかの旅立ち、小島さんらしいなぁ・・・胸せまる思いである。
85年の生涯を台東区の文化発展に寄与し、人望と交際から本法寺の通夜、本葬は(喪主・小島博心・葬儀委員長・梶原德二)服部区長はじめ各界有力者が弔問の列を成し遺徳を偲んだ。

―「浅草創刊号」(昭和45年当時38歳)に浅草への姿勢が感じられる。
網野宥俊(浅草寺執事長)・小林聡介(浅草観連・浅草商連理事長)・佐藤敏(のれん会会長)・穂刈幸雄(常盤堂雷おこし社長・うまいもの会会長)を前に決意表明である。『何か決闘に臨むような心持でおります(笑)。私と致しましては思い付きの企画でPR誌を発行する考えではありません。1つこれで儲けてやろうと云った考えでもございません。正直余りメリットの少ない商売であることはご出席の方々がよくご存じのことと思います。私共は浅草に少なからぬ恩恵を受けて参りました。1つはその返礼の意味を兼ねております。もちろん赤字を重ねる犠牲心は誰が出しても続きません。ある程度は地元の皆様のご協力が必要であります。浅草の味、良さを内外へPRする先兵として、街の発展に寄与したいと実行したのです。幸い大事をノーベル文学賞作家川端康成先生にお書き頂き、浅草らしいものを柱に立派なPR誌に致す覚悟でございます。皆様のご協力のほど深くお願い申し上げます。』
以来揺らぐ事なく今月で549号を数えている。世界文化遺産を祝って例年以上の盛り上がりを見せた『上野夏まつり』。氏が長年街の活性化に力を注いだ恒例行事だけに因縁めいたものを感じずにはいられない。
―合掌―

(田中けんじ, 2016年)

田中憲治 デザイン事務所「レタスト」http://www.letterst.jp/profile/index.html

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