そうそう、これもスポーツの一種と言えなくもないかな?(笑)、もうひとつ熱中したのが、喧嘩。中学に入ると、あちこちの学校の強者同士ちょっかい出したり出されたり、決闘に明け暮れてたっけ。そうはいっても、今どきの無秩序な犯罪まがいの乱闘ではない。昔の喧嘩には、ちゃんと筋が通っていたものだ。
一対一で正々堂々と勝った時の爽快感は、今の仕事で花道を歩く時の高揚感に通じるものが、あったように思う。
“やんちゃ”だった一方で、なぜか学業の成績はとても良く、学年で一人だけに贈られるありがたい賞を貰ったりもした。もっとも、酒井君(本名)は成績優秀だが、素行がよろしくないからどうなんだということで、先生方の間ではずいぶんと物議を醸したらしいけど…(笑)。
そんなこんなで、生まれ落ちた瞬間から色んな土地を巡り、色んな事があったけど、大鶴村に落ち着いてからの数年間については、なかなか幸せな子供時代だったと思う。ところが、ここからまた一転。わが家の根底を揺るがすような、大事件に見舞われた。
それは忘れもしない、中学2年の11月。
隣家が火事になり、そのもらい火で劇場も、自宅も、他に借りていた2件の家も、全焼してしまったのだ。
何もかもを失い、丸裸からの再起を余儀なくされた両親は、泣く泣く旅回りの生活へ戻ったが、私はまだ中学生。せめて卒業するまではということで大鶴村に残り、知人宅へ身を寄せることになった。
その下宿先というのが、母のファンだった豆腐屋の2階。とりあえずの宿を得て安心したのもつかの間、ここでもまた、ちょっとした騒動が待っていたのだ…。
【沢竜二(さわりゅうじ)・プロフィール】昭和10年11月19日生まれ。17歳で大衆演劇の座長となり、29歳で単身上京、船村徹に師事。苦節10年を経て俳優・歌手として開花。以後ジャンルを飛び越え、各種舞台、映画、TV等で幅広く活躍。枠に捕らわれぬ俳優として、独自のスタイルを貫いている。趣味は芝居、酒、女。
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