第19回「大黒家(だいこくや)~割烹~」
今回ご紹介するのは、古き良き昭和の香りを色濃く残す割烹「大黒家」。王道の和食を良心的な価格で、ゆっくりと味わえる隠れ家的な名店です。昭和2年創業の大黒家は、現在のご主人・丸山和也さん(54)で3代目。戦争を挟み激動の昭和をくぐり抜け、料亭街の栄枯盛衰を見つめ続けてきた老舗には、歴史の重みが感じられます。
「この界隈は東京大空襲で壊滅的な被害を受け、初代である私の祖父は亡くなり、店も焼けましたが、空襲に備え持ち出しておいた鰻のたれは辛うじて戦火を逃れ、現在まで継ぎ足し継ぎ足し、大切に使っています。」
たれや道具類とともに焼失を免れた戦前の写真も含む、貴重なアルバムを見せていただきました。そこに写っているのは、観音裏華やかなりし時代を物語る、生き生きとした風流人たちの姿。各界の名士、一流どころの芸者連、旦那衆に女将衆…最盛期には100件を数えた料亭で、毎夜繰り広げたられた煌びやかな宴…。そんな花街にも時代の波は確実に押し寄せ、昭和30年代をピークに1件、また1件と料亭の灯は消えゆき、今ではわずか数件を残すのみとなってしまいました。
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