現在の大黒家の店舗は30年程前に建て替えたものですが、その重厚な店構えには、初代の意思を引き継ぎ、料亭風のイメージを残したいとの思いが込められているのだそうです。
「外観から、高い店だと誤解されちゃうことも多くて(笑)。」
と苦笑いの丸山さん。けれど実際は高いどころか、かなりのお値打ち感!
この日頂いたのは、人気のランチメニュー「特別弁当」。お刺身、天麩羅、焼き物、煮物…旬の味覚たっぷり、目も舌も喜ぶ手の込んだお料理たち。素材を活かす上品な味付けは、料亭時代からの伝統を受け継ぐ本格派。“奇をてらわず、本物を”という姿勢そのままの、いわば〈実直な味〉です。
「うちはもともと鰻割烹ですけど、こういった色とりどりの日本料理も柱の一つなんです。どなたにも楽しんで頂けるよう、なるべく好き嫌いの少ないオーソドックスな野菜を選んだり、江戸らしい旬の食材をお出し出来るよう、常に心掛けています。伝統的な和食の良さを、もっと若い方や外国の方たちにも伝えてゆきたいですね。」
もうひとつ特筆すべきは、お米の味。こちらで使用しているのは、皇室への献上米としても名高い多古米。強い甘みと粘り気、こしのある多古米は鰻との相性も抜群で、それぞれの料理の味を引き立てる名脇役となっています。
「料亭の雰囲気を味わいながら、リーズナブルに美味しいものを味わっていただけるのが大黒家です。浅草の本当の魅力って一局集中ではなく、街全体に点在している、奥深いものだと思うんです。賑やかな雷門付近からもう少し足を延ばすと、またガラッと違う世界があって、人疲れせずに落ち着いて寛げるこんな店もあるんだってことを知って頂けたら、とても嬉しいです。」
派手さとは無縁だけれど、地道にこつこつと本物を提供し続けることで、食文化とともに浅草という街の歴史をさりげなく後世に伝えてゆく、大黒家。末長く残って欲しいのは、宣伝上手なだけのお店ではなく、実直な姿勢のこういうお店。心からのエールを送りたいと思います。
(「月刊浅草」編集人 高橋まい子)
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