拍子木のことを略して〈木〉または〈析〉(読み:き)という。
開幕の鳴り物に合わせて木をチョンチョンと次第に早めにきざんで幕があいていく。
開幕の時も、幕切れの木頭(きがしら)を主演者のイキに合わせ、舞台の効果をこわさぬよう合方(あいかた・伴奏音楽)の間を縫いながら木を打ち幕を閉めるのがきまりになっている。
時代物は強く打ち、世話物はやわらかみを持たせ、清元の出語りにはチョンチョンでなくチョロンというようにやわらかさを持たせよという口伝(くでん)など、情景に応じた使いわけやいろいろの慣習ができている。
そして、その芝居の幕切れに何時もと異なった余韻をもたせるために、全く木を打たずに渋く幕を閉めることがある。
これを「木なしの幕」という。この近代的な演出をはじめて試みたのは明治4年8月、守田座で河竹黙阿弥作「出来穐月花雪張(いでそよづきはなのゆきむら)」(真田幸村)上演の折で、これは家康の大阪攻めを書いた芝居で、当時の廃藩置県を当込んだものだ。
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