「美濃国にて」心と表現<第18回>熊澤南水|月刊浅草ウェブ

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5月31日、私は夕方の新幹線で名古屋へ向かった。
在来線に乗り換えて30分、大垣駅に着いたのは8時少し前、駅前のホテルにチェックインして明日からの準備に入った。前持って送ってあった特大のスーツケースが2個、手持ちのそれと合わせて3箇のスーツケースを押してエレベーターを待っているのに、フロントの係員は誰ひとり手伝おうとしない。安さで売っているホテルの、サービスと人件費節減の一貫なのだろうか、それにしても…と少々腹を立てながら5Fのボタンを押し、降りたところで嫌な予感がした。510号室は長い廊下の1番奥にあったのである。仕方なくそれらを押してやっとドアの前に。幸い誰にも会わずに済んだが、いい恰好である。ひとり旅を重ねていると、自分でも吹出したくなる程、不格好な動きをしなければならない事が多々ある。何年前だったか、長野県飯田市での公演を終え、佐久市に移動した時も大変だった。2月の寒い朝で、送ったのでは翌日の公演に間に合わないので、やはり大型の衣装ケースを2箇引っ張って移動したのだが、佐久平に到着した時には大吹雪だったのである。もちろん傘をさす手は無く、吹雪く雪と北風に向って、着物姿の婆さんが歩く姿を想像してみて下さい。プッと笑えるかも知れませんが、本人は必死である。

>次ページ「歩く道はそれぞれ違っても、女2人、これからも強かに、艶やかに、たおやかに!」

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