「聖天さま」心と表現<第1回>熊澤南水|月刊浅草ウェブ

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月刊浅草

平成3年の新年号からスタートした拙文「心と表現」が、300号を迎えることと相成った。この間一度も欠号することなく、産みの苦しみで7枚の原稿用紙を、送り続けられた事だけが、唯一の自慢ではある。平成元年に一年間だけ……と云う約束で、その年の12月号まで掲載された経緯が、過去にはあった。書く……と云う事の難しさを、改めて知らされて、約束の期限を無事務め、無罪放免となったのである。

編集長のO氏の口説きに肩を押され、再び誌面に登場するようになって、早や26年目の初春を迎えた。
〝いつでも辞められる〞と云う気持と、〝ここまで来たらペンを持てなくなるまで続けてみよう〞、両極端の思いが私の気持を支えている。此頃では、地方の方も定期購読者として、毎月楽しみに読んで下さる方も増え、励ましのお便りを頂くとやはり嬉しく、もう少し続けて見ようと思っている。
私の新年が、待乳山聖天様の「大根まつり」からスタートするようになって20年になる。
本誌新年号に、奇しくも聖天様に関する記事が、多く見られた。田中けんじさんの「あさくさつれづれの記」、松井天遊さんの「浅草四方八方噺」、そして編集部高橋まい子記者の「まい子のぶらり散策」と、聖天様特集号と云ってもいい位であった。

平成8年9月1日、私は鬼怒川温泉で一人の女性占師と出逢った。この日は花の宿「松や」と云う旅館での、定期公演の為に宿の一室に控えていたのである。この宿は、女将が大の竹久夢二ファンで、夢二の絵画コレクションを収蔵する美術館まで造ってしまった程で、毎年夢二の亡くなった9月1日、供養を兼ねてその日宿泊されるお客様に、サービスの一環として「南水ひとり語り」を企画していたのである。この企画は大変好評で、結局10年続くこととなった。
部屋で寛いでいた私の許へ、女将が挨拶に来て下さって、〝南水さん、今夜はお隣のお部屋に、私が心から尊敬している先生がお泊りになられます。この鬼怒川でお商売する上でいろいろ難しい問題が沢山ありましたが、先生のご助言で全ての道が開け、今日の様に繁栄させて貰っています。何か気になる事がおありでしたら、終演後先生にお尋ね下さい。きっといい方向に導いて下さいますよ〞
と、おっしゃったのです。確かに鬼怒川には沢山の宿が林立し、足の便も含めて何処も厳しい経営を強いられている様子だが、ここ松やさんだけは、いつもお客様で沸れている。女将さんの魅力はもとより、何か他にある筈だと、私も内心思っていた矢先の話だっただけに心が動いた。
そして終演後、恐る恐る部屋をお訪ねした私の目の前に、その方は凜として座っていらしたのである。お年は私よりも20歳も上……と、女将から聞いていたので、それなりに想像していたのだが、それは見事に裏切られた。ショッキングピンクのスーツに身を包んだスラリとした美女であった。74歳と云う年齢がとても信じられない。物腰も柔らかく、高飛車な物言いも無く、優しい温かい雰囲気に満ち満ちている。
「何か、ご心配事でも……?」
その時、私は秋に予定されている、銀座博品館劇場での「にごりえ」の事が、一番気掛りだったので、その事を伺ってみた。「あゝ……大丈夫ですよ。お客様もたくさんいらして下さいます。内容的にも好評ですから、心配しないでお務め下さい。」

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