岡本文弥(新内節太夫)の名随筆「気まま黄表紙」<第12回>|月刊浅草ウェブ

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◆竹本朝重さん

昭和の初めころ私が家業の新内を道具に使って戦争反対の浄るりを作り、ストライキの現場や農村へ出かけて演奏した。その時分に戦争反対なんていうと「非国民」といわれ、運の悪いのは豚箱へ放り込まれる。
そんな時代によくもと若い人たちが私の「勇気」をほめてくれるのですが、私としては戦争なんて金輪際イヤだからイヤだと言っただけのことで、「勇気」とほめるよりも「無鉄砲」とあきれ返る方が本当かもしれません。

ある会合でそんな思い出話いろいろのあと踊りの下ざらいに行く約束があって、遅れると困るので一座のMさんが自分のクルマで送ってくれました。NHK正面の門前で信号が赤になる。ふと見ると義太夫の竹本朝重さんがバスかタクシーを待つ様子で立っている。窓を開けて手を振る。女史ニコニコ笑う。一しょにいるのが三味線の師匠でしょう。この頃の女義界にはご無沙汰でどなたか分らない、失礼すみません。朝重さんは女子大出身で近松研究、文字だけでは物足りなくさらに実演の世界で努力を続けている、珍重。

>次ページ「◆先代朝重さん、◆恐るべし々々、◆招かざる客、◆招かざる客、◆邦楽とどんぐり会」

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