私の「芸流し人生流し」(中央公論社)の中に「歳時記」という部分があり、その9月の部にー竹本綾菊~美人の女義太夫。大正6年9月歿(ぼつ)、25歳、石渡つる子、綾容姿菊信女、台東区清川・出山寺。無縁になりかけていたのを岡田道一医博らが毎年綾菊忌小集を催し献句したり義太夫を語ったり、熱演のあまり花かんざしを振り落とす色っぽさに聴衆を狂喜させた彼女を偲び供養を続けている。私に彼女の記憶はおぼろげだけれど、あこがれの女芸人、永遠に若いことが魅力でもある。綾菊にわれは野菊を手向けぐさ。
ーこれを読んだといって未知の和田博氏から手紙を頂いた。小さな新聞型の「綾菊通信」が同封してある。ぽうっと胸があたたかくなった。もう世の中から忘れ去られてしまったような綾菊に、まだこんなにまで心を寄せる人がいたのかと、涙ぐましく、一年一回発行の1号2号を読み通す。綾菊にちなむ記事が一ぱい。
>次ページ「句のよしあしではなく、時代のズレにかかわる小感」
1 2