「沢 竜二(さわ りゅうじ)」の波乱万丈俳優記<第10回>月刊浅草ウェブ

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その後もオヤジとの舞台共演は長く続き、芝居と歌を介した信頼関係は、絶大なものとなった。私が、オヤジ作詞の名曲『男 幡随院 』に惚れ込み、無断で台詞を加えて歌っても、文句のひとつも言わない寛大さ。顔を合わせれば沢ちゃん、沢ちゃんといたずらを仕掛けてくる、お茶目なオヤジ。二人おちゃらけては歌ったり踊ったり(笑)、出演者が集まり、私が歌い北島三郎が女形になって踊る光景は、いくら入場料を払っても観れない、笑いの絶えない舞台裏だったろう。
…けれど、そんな至福の時をも一瞬で奪い去る文字通りの大激震が、すぐそこまで迫っていた。

平成23年3月11日、私たちは日生劇場で公演中だった。芝居を終え、オヤジのショータイムの最中、あの揺れが襲う。この期に及んでもまだ、ヘルメットを被って歌い抜くと言い張るオヤジ。その瞳に恐ろしいまでの信念の炎を見たが、無論それは、出来ない相談だった。
幸い事なきを得たものの、相当に思うところがあったのだろう。数日後、オヤジは私にそっと打ち明けた。
「俺…これを機に、退めようと思う。」
まさかとは思ったが、実際オヤジは、徐々に仕事を整理し始め、翌々年を最後に紅白歌合戦を辞退し、さらにその後、芝居からも手を引いた。年齢やけが等、他にも要因はあるにせよ、きっかけは間違いなく、あの東日本大震災だったのである。今年も、退めたり亡くなったりした芸人が、私の知人に沢山いる。 
いつだったか、八王子の大邸宅にお邪魔した夜、綺麗にライトアップされた私設ゴルフ場を見下ろしながら冗談めかして呟いたオヤジの言葉が、忘れられない。
「家族はこの眺めを見飽きたのか、誰も2階には来なくなったが、俺はここまで頑張ったと、この眺めを見るたびに優越感に浸ってるんだよな。」
大御所・北島三郎をも退かせた大惨事。今、コロナ禍に直面し、あの時のオヤジの気持ちが身に沁みる。引くも進むも美学なら、せめて私は、いつでもこれが最後の舞台という気持ちで、出来る限りのことを続けてゆく覚悟だ。つい、〈生涯芸道〉なんて色紙に書いてしまったことだし…(笑)。

さて、オヤジシリーズは、これにて終了。次回からは男女取り交ぜ、個性溢れる芸能界の友人達の話をしよう。
まずは、勝新太郎
私が初めて勝っちゃんと会った日に何が起きたか、聞いてみる(笑)?

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