「芸能の町、浅草では今月も新国劇の名作公演が行われています」と、こんなナレーションがテレビから流れてきた。昭和59年9月、関東地方で放送されたNHKの番組と記憶している。画面には浅草公会堂前のオレンジ通りに、幟(のぼり)旗が並んでいた。「新国劇名作特別公演」「辰巳柳太郎」「島田正吾」…新国劇が四十五年ぶりに浅草で行った公演で、演目は島田正吾の駒形茂兵衛、三浦布美子のお蔦で『一本刀土俵入』、辰巳柳太郎の忠治で『極付国定忠治』の二本。私が舞台を観たのはテレビ放送の前か、それとも後だったか今は判然としない。問題は、前記のナレーションに続く映像だった。番組全体は浅草を紹介するもので、芝居だけでなく、さまざまな人や店舗も登場した。そのなかに「こんなお店も…」と、着物姿で刀を持った人物が登場して『国定忠治』の名場面が始まったのだった。
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