さて江戸時代、この境内で盛んに行われたのが勧進相撲だ。なかでも名勝負として知られるのが1787(天明2)年2月場所7日目、63連勝中の四代横綱谷風が小野川に敗れた一番。江戸っ子たちは大騒ぎ、小野川は5代横綱となり谷風と一時代を築いた。
そして小野川に続く、6代目の横綱が落語⽝阿武松(おうのまつ)⽞の主人公でもある阿武松緑之助だ。能登の国から江戸へ出た長吉が、並外れた大飯食いのため破門されながらも綱を張るまでの出世物語。入幕して小柳長吉を名乗り、蔵前八幡でかつて破門された師匠・武隈文右衛門と対戦したのが長州公の目にとまり、阿武松〝(阿武の松原〟と呼ばれた山口県萩市の菊が浜に由来)を新たな四股名として横綱となった。事実に基づいた噺ではあるが、阿武松と武隈の顔合わせは現役期間が異なるため不可能ともいわれている。
蔵前神社を歩いたのは6月上旬。例年であれば例大祭
で賑わう時期だが、今年は感染症予防のため各地の祭礼、行事が中止・延期となった。やはりひっそりとした境内で「来年こそは」と柏手を打ち、シロの像にもよくお願いして蔵前神社を後にした。
(写真/文:袴田京二)
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