今、この原稿をロンドンで書いている。
Regent Street Cinemaという老舗の映画館で英語の活弁公演をさせていただくからである。
飛行機で14時間半。
もともと時差ボケを感じにくい体質の私は、足のむくみで靴が履けなくなったことを除いては、元気にイギリスの大地に到着した。
街並みは想像していたとおり伝統的で、シャーロック・ホームズの映画のような煉瓦の家々が並び、玄関に入るには数段の階段を上がるタイプが多い。
電車は意外と分かりやすく、移動には困らない。
昨今の円安の影響もあり、あらゆるものが高く感じられるので、今回の自由時間は食事よりも後の学びのためにエンターテイメント関連の観賞に費用を回したいと考えている。

Regent Street Cinemaにて
ロンドンに来ることは長年の夢だった。
なぜならば、敬愛してやまないチャップリンの生まれ故郷だからだ。
私は「活弁」という白黒の無声映画に声をつける芸能を生業にしている父の下で生まれ育った。
中でも、チャップリンやキートンのドタバタコメディが大好きで、一人で留守番をするときには、いつも頭の中で父の声を再生させながら映画を観て(聴いて)過ごした。
チャップリンは私の人生の原点であり、社会だった。
10歳の時に浅草木馬亭で活弁士としてデビューした時も、チャップリン映画を父と掛け合い活弁で上演した。
「映画を語る」という職業柄、同じ映画を何百回、何千回と観続ける。
かつて、周りの小学生たちが「チャップリン」を知らなかったことは大きな衝撃だった。
それ以降、世界中の人々と活弁の楽しさや感動を共有することと、特にチャップリンの生まれ故郷のロンドンで英語の活弁を披露することは、私の大きな夢となった。
チャップリン映画を活弁で上演する時は、「もしチャップリンが生きていたら、どういう反応をするだろうか」と考える。あれから30年。30年越しにいよいよロンドンに来ることができた。
締切日の都合上、ロンドン公演がどうだったのかは書けない。
しかし、30年越しの夢が、まもなく叶う時が来たことを喜びたい。
奇遇だが、時を同じくして12月19日(金)から、チャップリンにまつわるドキュメンタリー映画『チャップリン』(原題:CHAPLIN SPIRIT OF THE TRAMP)が公開される。
事前試写会に参加させてもらったが、映画の冒頭で晩年のプライベートフィルムが映し出されチャップリンの表情やしぐさから穏やかで幸せそうな日々を過ごしていた様子が伝わってきて、開始2分で涙が溢れて止まらなかった。
あれほど世界中に溢れんばかりの愛を届けた人が、あれほどたくさんの人生の苦難と立ち向かい続けた人が、人一倍幸せにならない世界は納得ができないと長年思い続けてきた。
チャップリンは、1889年にロンドンに生まれた。
両親はヴォードビル(寄席のようなバラエティ劇場のイメージか)の歌手をしており、チャップリンが3歳の頃には歌を歌ったり、一座の人のモノマネをしたりして周囲を驚かせていた。
初舞台は5歳の時で、母の代役としてステージに立ったのがはじまりという。
そこから世界の「チャーリー」になるには、たくさんの波乱と努力がある。
まもなく日本で公開される映画『チャップリン』は、チャップリンの知られざるルーツに迫る。
世界的に愛された“放浪紳士”チャップリンは、庶民の哀愁や社会風刺を巧みに織り交ぜた数々の名作で知られるが、そのキャラクターの背景にはロマ(=ジプシーのこと)のアイデンティティがあったとされる。
ちなみに、チャップリン自身も自伝に「Grandma was half gypsy(祖母には半分ジプシーの血が流れていた)」と記している。
本作では息子マイケル・チャップリンが父の足跡を辿り、父子の葛藤や名声の陰を語り、監督を務める孫カルメン・チャップリンや娘ジェラルディンら家族も出演。
さらにジョニー・デップら著名人の証言や、『キッド』『街の灯』『独裁者』『ライムライト』などの名作映像、未公開のプライベートフィルムを交えながら、チャップリンという人物の本質、そして“放浪紳士”の奥にあるルーツを多面的に描き出す貴重な作品となっている。
ぜひご覧いただきたい。

12月19日(金)より角川シネマ有楽町ほか全国順次公開予定

©The Caravan Trail, A.I.E, Kwanon Films Limited, and Submarine Sublime 2024
Charlie Chaplin™ © Bubbles Incorporated S
《後日談》
ロンドン公演を無事に終演することができた。「Regent Street Cinema」はイギリス映画発祥地の映画館で、劇場自体がとても重厚感がある建物だった。
何よりも、スタッフ陣のサポートがすごかった。
舞台裏でマイクの受け渡しをしてくれた男の子は、普段俳優をやっているらしく、緊張している私に深呼吸の仕方を教えてくれて、「『私はすばらしい!必ずできる!』と繰り返し声に出して!」と、私がステージに足を踏み入れる30秒前まで、自信の持ち方をレクチャーしてくれていた。
映像・音響・照明を担当してくれた中年の男性は、最初は固い人かな?と思ったけれど、ジョークをいっぱい言って和ませてくれ、少しでも時間の隙間があると「リハーサルやる?」と誘ってくれて本当に嬉しかった。
私は時間がある限りリハーサルをやりたいタイプだけれど、リハーサルをさせてもらうということは、スタッフの時間をも拘束することにもなる。
慣れているスタッフならまだしも、初めてのロンドンのスタッフとの仕事で遠慮した方がいいかな?と思っていたので、とても助かった。
お客様もとても反応がよくて、上映きっかけのセリフ「映写よーい、スタート!」と私が言うのと合わせて、「スタート!」と叫んでくれた。
活弁後に1時間くらいトークショーを行ったが、質問が終わらず、ロビーでも質問タイム。
さらには帰国後も多くのお客様がインスタグラムのDMで質問を送ってくれて交流が深まった。
いつか彼らと浅草で再開できたらいいなと思う。











