【異国の伝統を継承するサントゥール奏者・岩崎和音】こやたの見たり聞いたり<第14回>月刊浅草ウェブ

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岩崎さん「現在、活弁士は何人くらいいるんですか?」
こやた「十数人です」
岩崎さん「多いですね」
こやた「えっ?」

私のやっている活弁という芸能も、大概珍しいと言われるが、岩崎さんはさらに希少だ。日本で活動しているサントゥール奏者は2人くらい。生まれて初めて、活弁士の人口について「多いですね」と言われた。活弁もサントゥールも、もっと大勢に広まってほしい。

みなさんは、サントゥールという楽器をご存知だろうか。サントゥールは、台形の共鳴箱の上に張られた弦を、細い木製のバチで打奏する打弦楽器で(写真参照)、主にイラン・ペルシャ音楽の演奏に用いられる。数千年前にペルシャで誕生し、ピアノの前身と言われる楽器だ。修練を積んだバチ捌きによって叩かれた弦は、他の音と幾重にも重なり合って共鳴し、不思議な音響空間を作り出す。イランでのサントゥールは、日本でのピアノと同じくらいメジャーな楽器で、子どもたちの定番の習い事だそうだ。

今回ご紹介するのは、このサントゥールという楽器に魅せられて、プロのサントゥール奏者となった岩崎和音(いわさきかずね)さんである。岩崎さんは、小さい頃からピアノを習っていた。ピアノはずっと好きで、大学は大阪音楽大学へ進学した。在学中、古楽器を学ぶ授業でサントゥールと出会い、これまで自分があたりまえだと思っていた「常識」が、音を立てて崩れ落ちるような衝撃を受けた。サントゥールの音色は、幻想的で、風変わりで、他に類を見ないアンニュイな雰囲気を醸し出す。五線譜では表現できない独特な音階がたくさんあった。この未知なる楽器との出会いによって、岩崎さんは自由を獲得したような気さえしたという。

大学を卒業後、「もっとサントゥールについて学びたい」と本場イランへの進学を決めた。イラン国立テヘラン大学院で修士号を取得し、同大学で最優秀国際学生賞を獲得した。その背景には、素晴らしい師匠との出会いもあった。地元メディアからも、「テクノロジーの発展を極めた日本から、イラン音楽を学びにやってきた!」と珍しがられながらも歓迎された。

サントゥールの醍醐味はその即興性にあるが、でたらめに弾いているわけではない。師匠から口伝で教わる膨大な伝統的旋律をベースに、即興で旋律の綾を編んでいくというイメージだそうだ。岩崎さんのサントゥールは、清々しいほどに開放的な音を奏でる。はるか昔の古代オリエントの時代から継承されてきたサントゥールの伝統が、時空を超え、国境を超えて我々に迫ってくる。美しい音は普遍的に美しいのだ。

「(日本の)大半のお客さんはサントゥールを聴くのが初めてだから、伝統の旋律を多少間違えても分からない。でもだからこそ間違えることができないんです」と、自分を律し、日本でイランの伝統音楽を継承する。

作家・坂口安吾が『日本文化私観』の中で言及しているが、日本人だから日本の伝統継承者として最もふさわしいとは限らない。外国の文化でも日本人に最もふさわしいということも起こりうるし、日本人だからこそ発見できる外国文化の魅力もある。

岩崎さんは、元からイランや中東文化に興味があったわけではない。興味を持った楽器が、たまたまそちらの地域の伝統楽器だっただけだ。その「音」に引き込まれてサントゥール奏者になった岩崎さんは、小さい頃から好きだったピアノと同じ視点でサントゥールを捉える。岩崎さんは「イラン人とは異なるバックグラウンドを持つ自分だからこそ、表現できることがあるのではないか。サントゥールに馴染みのない人にも、その魅力を伝える架け橋のような存在になりたい」と意気込む。

これぞまさに、百聞は一見にしかず。浅草は、いつだって新しい刺激を楽しむ懐の深い街だから、まずはその音色を聴いてもらいたい。

インスタグラム https://www.instagram.com/kazune_santoor.totoro/

ユーチューブ https://youtu.be/hmf-YaxQEmE

【筆者紹介】
活弁士・麻生子八咫(あそうこやた):父麻生八咫に弟子入りし、10歳の時に浅草木馬亭で活弁士としてデビュー。
活弁は、サイレント映画に語りをつけるライブパフォーマンスです。どうぞよろしくお願いします。

※写真の転載を固く禁じます。

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