ー連日のようにマスコミに登場する人工知能(AI)。「見る・聞く・話す・考える・学ぶ」。人間が持つ知的能力を膨大なデータを基に覚えさせ、特徴表現を論理的に組み立てる。
ー「AI」が進化し、あらゆる産業分野「自動車・IT(情報技術)・医療・創作物」に影響を与えることを踏まえ、政府は人工知能開発の法整備が必要と判断。司令塔となる「戦略本部」を立ち上げた(本部長・安倍晋三(当時)首相)。5月9日「知的財産推進計画2016」を決定。具体策を17年にも新たに設ける。①人間がAIを制御できるようにする。②人間が人間の生命安全に危害を及ぼさないようにする。③AIが人間のプライバシーを侵害しないようにする。
ー創作物についても小説や音楽・動画・3Dデータなどの権利を保護する法整備を整え商標のように「AI創作物」の登録制度を盛り込む。元来、著作権法は「思想・感情の創作的な表現」を定義しており、小説・音楽・絵画を作者に無断で使うことを禁じている。今後はAIを活用してそれらを生み出す仕組みを作り出した人や企業が権利を有することになる。
英国は既に1988年コンピューターによる作品は「創作に必要な手配をした者」と定め、米国は新例ごとに「創作性の有無」を判断している。今年1月話題になったサルが自分を撮った写真。連邦地裁の判決は「サルに著作権はない」としている。
ーともあれ「AI」は短時間で労せず大量な作品を生み出すことになり、活用領域は飛躍的に拡がる。
文学の世界では2年前、自然言語処理技術を活用する人工知能プロジェクト「作家ですのよ」が創作活動を始めている。 『その日は雲が低く垂れ込めた、どんよりとした日だった』新進気鋭AI作家の序文である。人工知能学会会長・松原仁教授は、小説のあらすじを用意すると、AIは前後に矛盾なく文章を完成させる。入選は逃したものの第一次審査をパスし、今年9月改めて第3回日経主催SF作家「星新一賞」に応募する。2030年頃には論理だけでなく感性や創造性を持たせ、芥川賞や直木賞を狙える長い小説も視野に入れている。AI小説がベストセラーになる可能性も現実味を帯びてきた。
ー人間の領域に入り込んだ人工知能にどう向き合うか?私は生き方に便利さや効率性を追求しない。パソコンやスマホをやらないが興味深く見守っている。当初から倫理観に由来する「価値判断・感覚・感性・感情・美意識」こそ人間にしか求められない最高の分野と考えているからだ。最近、ITや製造業の現場から、美術、デザイン学部出身者が引っ張りだこになっている。進化すればするほどユニークな芸術家が想像力で付加価値を提供する。
最近心地良かったのは江戸の感性〈市松文様〉が「五輪エンブレム」に決定したこと。藍色と白がすっきりと躍動する創造性。アナログとデジタルの融合が江戸デザイン文化を象徴している。
〝トントン!〟「なに頭かかえてるの?」「やぁAI君、ネタ切れで浮かぶのは編集長の顔ばかり・・・」そんなことじゃ〈つれづれの記〉も肩たたきだなぁ、次回は僕が書こうか!
(田中けんじ, 2016年)
田中憲治 デザイン事務所「レタスト」http://www.letterst.jp/profile/index.html
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