コロナ禍は、確かに大きな試練に違いありませんが、芸能の在り方に対する、新しい扉を開く鍵ともなり得ます。 災い転じて福と成せるよう、今こそ前向きに具体策を考え、実行に移してゆくチャンスだと思うのです。
「浅草活弁祭り」では、父・麻生八咫が白黒無声時代劇の傑作・稲垣浩監督の「瞼の母」(昭和6年)を、娘・子八咫はオリジナル作品「活弁の聖地、浅草!すべてはここからはじまった」を演じました。
八咫師匠の熟練の語り口は、やはり流石のもの。ストーリーテラー含め、全役柄を一人で演じるのが活弁という話芸の特性ですが、片岡千恵蔵の忠太郎から山田五十鈴のお登勢まで、何の違和感もなく巧みに演じ分け、強烈な吸引力であっという間に物語の世界に観客を引き込んでしまうのですから、圧巻です。
一方の子八咫は、自ら編集を手掛けた映像を披露。明治・大正・昭和…と各時代に大流行したジゴマやのらくろ、チャップリン等の名場面を演じ、笑いも交えつつ、浅草六区興行街の変遷を、解りやすく伝えました。
伝統を守る父と、従来の枠にとらわれず、果敢にトライアルを試みる娘。温故知新を体現する名コンビからは、活弁の無限の可能性と楽しさが溢れ出ていました。
芸の素晴らしさに加え、今回特筆すべきは、演目以外の部分でも随所にちりばめられた、演出の妙。ウィズ&アフターコロナ時代の芸能公演の在り方に一石を投じる意味で、劇場側としても、大変よい勉強となりました。
まずは、活弁に入る前の掴みとして、笑いの要素をふんだんに取り入れたこと。子八咫が意表を突いた“下町のお婆”姿で登場し、ズッコケたり叫んだり、抱腹絶倒のコントに初挑戦。転ぶ練習に2か月かけたという(笑)涙ぐましい努力の甲斐あり、会場は一気に和やかムード!
観客の入退場にも、工夫を凝らしました。
混雑を避けるため、チケット販売の段階でなるべく早めの来場を呼びかけていたのですが、開演までの時間にお客様が退屈しないよう、子八咫が楽屋から絶えず話しかける姿をスクリーンに映し出したり、また、退場時にも恒例の出演者の見送りを中止した分、最後尾の方が退出されるまで、舞台からの語りかけを続けました。夜公演ということもあり、本来なら我先にと帰路を急ぐはずのお客様も、楽しいお話を聞きたいがため、誰もがゆっくりとした足取りに。結果、ホールやエレベーターの蜜状態が緩和されたのですから、これはなかなか上手い作戦でしたね!
今回の公演を通じて、やはり浅草には、映画という文化が本当によく似合う、ということをあらためて感じました。
私がこの街にやって来た頃には確かにまだ存在していた、活気に満ちた各館の呼び込み合戦の声、満員電車さながらにひしめき合う人々の姿…。それらには、本当に「過去の浅草の記録」として永遠に白黒フィルムの中に閉じ込められるだけの運命しか、残されていないのでしょうか?
街おこしには、主軸になる何かが必要です。浅草六区の場合、それは間違いなく大衆芸能なのですが、そのなかでもやはり映画は、各方面に多大な影響を及ぼした格別な存在。そこに再び大きくスポットを当ててみることも、一案ではないでしょうか?平成24年を最後に、浅草の映画館は消滅しました。それから現在に至るまで、映画館の再建を望む声は絶え間なく聞かれ、もちろん我々地元民の願いでもありますが、この不況下において確実に採算の取れる施設を新設することは、残念ながら現実的ではないでしょう。
しかし我々は、コロナ禍で学びました。文化・芸能を発信する術は、いくらでもあるということを。“映画館がなければ、映画は観れない。映画館のない街から、映画文化を発信出来るはずがない。”…そうではありませんよね?固定観念をきれいさっぱり拭い去り、知恵を絞れば、何でも出来る時代なのですから!
東洋館には、今でも2台の映写機と設備、古くからの貴重なフィルム等が現存し、声を掛ければいつでも手を貸してくれる技師さん達との繋がりもあります。上映できる要素は揃っているのですから、その気になれば、すぐにでも即席映画館に変身可能という訳です。
集客の問題さえクリアできれば、かなり現実味が出てきますよね。例えば、の話ですが、「月刊浅草」とのタイアップなんていうのは、どうですか?本誌持参の方は、大幅割引いたします…とかね(笑)。一回こっきりで終わっては意味がないけれど、定期的に上映会を続けてゆけば、相乗効果で良い方向に進むのではないでしょうか?
流行りの有料ネット配信も、一考の価値ありでしょう。一部の芸能では、かねてより会場へ出向くことが難しかった年配のファンから、居ながらにして楽しめるようになったと喜ばれ、収益を伸ばした例もあるそうです。
一時は“化石化した芸能”などとと言われながらも(笑)、麻生父娘のように若い感覚を取り入れて復活の兆しをつかみつつある活弁を好例に、我々も現状を嘆くのではなく、各世代間で提供できる資源や知恵、技術等を出し合い協力しつつ、前進してゆくべきでしょう。
小さな改革を大きく育て、一軒でもいい、いつか夢の映画館を、この街に甦らせたいたいものですね!
(口述筆記:高橋まい子)
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