「笑いジワが証す、福祉のプロフェッショナル!こやたの見たり聞いたり<第41回>月刊浅草ウェブ

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就労継続支援事業所「LiNE PARK」代表・大久保和樹さん ―



10月某日の朝9時25分。約束の時間より5分ほど早く到着した。エレベーターを降りると、開いたドア越しに利用者さんたちが集中して作業する姿が見える。
邪魔をしないように静かにドアへ近づくと、数人がこちらに気づき、「こんにちは!」と明るい声を発してくれた。
皆が気がつくと、室内の全員が立ち上がり、「こんにちは!」「お待ちしておりました!」と一斉にお辞儀をしてくれた。
そして、「しゃちょ〜、コヤタさんがいらっしゃいました!」という声に呼ばれて現れたのが、「LiNE PARK」代表の大久保和樹さん(39歳)だ。

にこやかな利用者さんたちの挨拶に迎えられ、「皆さん、ご挨拶がすごいですね!」と言うと、「あれは教えたわけじゃなくて、みんな自発的にやってるんですよ」と大久保さん。
なんと、自然発生的なおもてなしだった。室内は明るく開放的で、アメリカンなポップ感が漂う。
「僕の趣味です」と笑う大久保さん。自然と通いたいと思うような綺麗で楽しい空間づくりを心がけているそうだ。

「LiNE PARK(ラインパーク)」は、2021年3月に設立した。東京都足立区の綾瀬駅から徒歩3分という便利な立地で、最初はわずか1〜2名の利用者から始まった。
当時はコロナ禍の真っ只中。
予定されていた仕事が次々とキャンセルされ、企業から新しい仕事を開拓するところからのスタートだったという。
なぜ足立区・綾瀬を選んだのか尋ねると、「埼玉・千葉・茨城など他県からも通いやすいからです」と合理的な答えが返ってきた。“誰もがアクセスしやすい場所”という視点が、すでに福祉的である。

障害者就労継続支援事業所には「A型」と「B型」がある。A型は事業所と雇用契約を結び、最低賃金が保証される「雇用型」。
一方のB型は雇用契約を結ばず、体調や生活リズムに合わせて働く「非雇用型」。利用契約を結び、作業分の工賃を受け取りながら、社会参加やスキルアップを目指す仕組みである。
LiNE PARKは後者のB型だ。その柔軟さを生かし、利用者一人ひとりのペースと個性に寄り添う。

以前、感情鈍麻(=感情の表出が乏しい症状)の利用者さんがいたので、毎日ジョークを飛ばしながら笑っていたら、次第に小さくツッコミを返すようになり、やがて笑顔を見せるようになったという。
その笑顔が見られた時の喜びは何にも代えがたい、と大久保さんは目を細める。

もともと大久保さんは大手包装資材会社に勤めていた。
しかし、ある日ふと「このままでいいのだろうか」と立ち止まる。
「やり残した夢を叶えたい」と思い立ち、音楽の道へ進んだ。幼い頃から猪突猛進の性格で、両親が最初に教えた言葉は「ストップ」だったというほど、決めたら一直線の子どもだった。
やがて再び転機が訪れる。
偶然出会った「福祉」の世界に、新しい情熱を見出した。
「ビジネス重視の福祉」に違和感を覚え、「真の福祉とは何か」を模索する中で、ビジネスではなく「“福祉”に重きを置く福祉」で成功モデルをつくる決意をしたのだ。

スタッフ採用の際は、あえて未経験者を選んだ。
「“福祉はこうあるべき”という固定観念がない人の方が、利用者さんにまっすぐ向き合える」と考え、ゼロから共に学ぶチームを育てた。
スタッフと利用者さんの間にはしっかりとした信頼関係が築かれていることは、利用者さんの生き生きとした表情から伝わってくる。

突然、障害のある子の親になることは誰にでもありうる。
親としての心構えとして、何かアドバイスありますか?と聞くと、「大切なのは“見守る”ことです」と大久保さんは語る。
「『親』という字は“木の上に立って見る”と書きます。必要最低限のサポートで、あとは信じて見守ることが大事なんです。」

「どんなことがあっても笑顔で、利用者さんを守る」そう語る大久保さんの目尻には、深い笑いジワが刻まれている。
そのシワこそが、幾多の困難を笑顔で乗り越えてきた証だ。
福祉の現場の厳しさは想像に難くない。
それでもなお、真摯に、温かく、笑いながら支える人がいる。その事実に、胸が熱くなる。真の福祉とは何だろう?と、懸命に考え、挑み続けるプロフェッショナルと出会い、背筋が伸びる思いがした。

取材後、LiNE PARKさんのYouTubeに出演させてもらった。11月中には公開になると思うので、ぜひご覧いただきたい。

ホームページ:

https://linepark.co.jp

YouTubeチャンネル:

https://youtube.com/@osaborichannel

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