筑摩書房の「ちくま文庫」から出る『吉原酔狂ぐらし』(2003年)については、企画段階から聞かされていたので、「本のカバーは、滝田ゆうさんの遺作の中から、酔狂ぐらしにふさわしい絵を探し出し、文庫本の表紙を飾りましょうよ」と、吉村先生に会うたび、強く主張していた。生前、滝田さん自身も、筑摩書房から複数の画文集を出していたから、同じ出版社とは好都合なことであった。
忘れかけていた頃、「稲川さんの希望通り、文庫本は滝田さんの絵で決まりましたよ」と、吉村先生からうれしい電話があったので、「これは先生、乾杯ものですよ」と喜び合ったものである。
銀座ヨシノヤ靴店の会長矢代裕三さんと吉村先生は、同じ赤坂小学校の同級生、いわゆる幼友達である。私は取引先という関係だったが、以後は、お二人の連絡係として親しくお付き合いするようになった。
普通の人は「平さん」、矢代会長のような幼友達は「平ちゃん」と呼び合っていたが、私の場合は「吉村先生」、その由縁はこの辺に関係があったのかも知れない。いずれにしても、大先輩との距離が近くなったことはうれしいことであった。
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