四季折々の美しさを見せる隅田川の周遊ルートは、吾妻橋を出発してレインボーブリッジをくぐり、お台場で折り返す所要時間約120分のコース。水上ならではの情緒を味わいながら、船頭自らが揚げるアツアツの天麩羅をはじめとする美味しいお料理やお酒もゆっくりと堪能できます。
かつては上流階級の特権であった舟遊び。現在では、それぞれの予算とスケジュールに合わせて誰もが楽しめる、新鮮な娯楽として生まれ変わりました。あみ清も、明治時代の創業以来脈々と受け継がれてきた基本を大切にしつつ、時代に合わせ若い世代らしいアイディアを存分に盛り込みながら、各種イベントやパーティー、災害時の水上交通など、屋形舟の新たな可能性を日々摸索中です。
多くの業種が後継者問題に悩む浅草において、3人の子供たち全員が一級船舶免許を取得し、一丸となって切り盛している、あみ清。小さい頃からごく自然に父を手伝い、自分たちの意思でこの道を選択しました。家業を継げと言われたことは、一度もありません。
哲夫さんから叩き込まれたのは、尊い命を預かる仕事なのだという自覚と、お客さまの気持ちを第一に考える、ということ。昔の旦那衆とは違い、同じ舟に乗ったお客様は、わけへだてもなく皆平等。全員が同じように楽しんで、気持ちよく帰っていただきたい。
そんな思いが通じるのでしょう、何年も前に乗舟した時の心地よさが忘れられないと、再訪して下さるお客様も多くいらっしゃいます。
心づくしのお料理の味、耳に残る波音、肌をなでる川風、鼻をくすぐる水の匂い、目に飛び込んでくる色彩...五感フル動員の舟上体験は、街歩きとは全く違った鮮烈な印象を、胸に深く刻み込んでくれるようです。
2021年の東京オリンピックに向け、ウォーターフロントの活性化とともに「三本の矢」が担うあみ清の、益々の発展に大いに期待しています。そして、「一番の望みは、次の世代、また次の世代へと、この仕事を絶やさず繋いでゆくこと。それが父や御先祖様への何よりの恩返しだと思っています。」とさりげなく言った時の長女・朋子さんの笑顔もまた、温かく心に残りました。
(「月刊浅草」編集人 高橋まい子)
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