「手ぬぐいは、単に手を拭うためのニッポンのタオルではなく、古来より様々な用途に使われてきた”木綿の染ぎれ”。だから、色々な使われかたがあっていいのです。切ったり、別のものに作り変えたりして頂くのも、むしろ嬉しいくらいです。」と川上さん。
伝統を守る職人的な気質と同時に時代に合った考えも柔軟に取り入れるしなやかさの持ち主ですが、ネット販売等にためらいがあるのは、パソコンの画面からでは何より大切な風合いを感じ取っていただくのが、困難だから。
「とにかく、本物を実際に見て手にとって、ふじ屋の手ぬぐいを“感じて”欲しいのです。」
一度でも現物を見た上で購入して下さったことのあるお客様からの電話・FAXによるご注文は、喜んで承っているそうです。
父上・桂司氏が生涯をかけて取り組んだ仕事のひとつが、江戸時代に活躍した浅草ゆかりの戯作家・絵師、山東京伝の手ぬぐい図案の復刻でした。200年以上の時を経てなお色褪せぬ斬新で粋な京伝図案は、江戸の遊び心を今に伝える、ふじ屋の誇り。
先代から受け継いだ伝統に、歌舞伎をはじめ幅広い文化・芸術に精通した川上さんならではの作品、そして大学卒業後あらためて絵の勉強をし直し、現在修行中の3代目となる息子さんの 若さ溢れる感覚も加わり、父から子、そしてまたその子へと脈々と受け継がれてゆく手ぬぐい文化は、無限の可能性に満ち溢れています。
私が初めてふじ屋の手ぬぐいに出逢ったのは、数年前の三社祭の日。この日の記念にと購入した可愛らしい豆手ぬぐいは、洗濯を重ねるごとにくたびれるどころかむしろ、より優しい手触り・より落ち着いた色味へと日々魅力的に変化しています。
手間暇を惜しまずに生み出された「本物」を、ゆっくりと愛でながら日常を楽しむという、こころの贅沢。
手ぬぐいは、現代の暮らしに欠けている大切なことを教えに江戸時代からタイムスリップしてきてくれた、伝道師さんでもあるかのようです。
浅草寺詣の帰り道、ふじ屋を覗いてみて下さい。じっくりと選んだあなただけのお気に入りの一枚とともに、どうぞゆとりに満ちた心おだやかで素敵な時間を、お過ごしくださいね。
(「月刊浅草」編集人 高橋まい子)
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