【怪盗バンクシー】こやたの見たり聞いたり<第2回>月刊浅草ウェブ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

アルセーヌ・ルパン、石川五右衛門、怪盗ジゴマ、怪人二十面相……正体不明で神出鬼没な犯罪者たちは、いつだって人々を魅了する。

「秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず」
これは能の大家・世阿弥の言葉であるが秘密にすれば「花」になる。が、反対に、公にしてしまえば、それは「花」ではなくなる。人間は、秘密に惹かれる生き物なのかもしれない。秘密にすればするほど、人々の興味関心は高まっていくのである。

さて、この情報化社会の中にあって、未だ正体を隠したまま、世界中を騒がせているアーティストがいる。バンクシーだ。バンクシーは、神出鬼没のゲリラ的戦法で壁にスプレーアートをするストリートアーティスト。90年代からイギリスを拠点に活動し始めた。ユーモラスでありながら、社会風刺の強い作品を数多く発表し、現在進行形で世間を騒がせている。

まず特筆すべきは、彼の行動力だ。バンクシーを有名にした出来事の一つとして、2005年にニューヨークの4つの世界的なミュージアム(ニューヨーク近代美術館、メトロポリタン美術館、ブルックリン美術館、アメリカ自然史博物館)に勝手に押しかけ、自分の作品を飾ってしまったことがあった。変装して館内に入り、わざわざ掲示する場所に合わせた作品をこっそり掛けた。盗難には厳重に警戒している館側も、さすがに「押しかけ展示」は想像だにしなかったに違いない。しかも理由が「死後有名になるまで待てないと掲示を決意した」というのだ。そして、「美術館は一部の億万長者のための宝庫にすぎない、一般の人々は展示について口出しできない」とも述べ、美術館に自分の作品を飾ることで、美術館の権威を風刺している。

バンクシーの作品は、見るものに衝撃を与える。「WELCOME TO HELL」(地獄へようこそ)と書かれた看板を持つネズミ、爆弾を抱える少女、「POLICE」(警察)のロゴTシャツを着ながら無邪気に遊ぶ子供たち、議員がすべてチンパンジーになった英国議会、満面の笑みを浮かべるミッキーマウスとマクドナルドに手を引かれるベトナム戦争で衣類も皮膚も焼かれた少女……。


作品自体も刺激的だが、バンクシーは見せ方に関してもエンターテイナーである。「シュレッダー事件」(2018年)はあまりに有名だ。バンクシー作「風船と少女」は、オークションで約150,000,000円で落札されたが、落札直後、額に仕掛けられたシュレッダーが作動して、作品を細断してしまったのである。ここでもまた、「アートは一部の富裕層のものではない」というメッセージが垣間見られる。後にこの作品のタイトルは「愛はゴミ箱の中に」と改題された。昨年2021年10月には本作品が再びオークションに出品され、前回落札時の20倍の約2,900,000,000円で落札された。

日本でもバンクシーは大人気だ。去年行われた「バンクシーって誰?展(東京)」は、コロナ禍にも関わらず若者を中心に大盛況だった。筆者も事前に時間指定チケットを購入して訪れたが、いざ行ってみると入場まで80分待ちだった。現在公開中のバンクシー展は、世界で来場者数 3,000,000人を動員した「天才か反逆者か」(〜2022年3月8日)である。原宿のWITH HARAJUKUで公開されているので、気になる方はぜひ見に行ってほしい。本来は街頭アートなので1回1作品と対面するのが基本だが、展覧会では多数の作品が展示される。当然、バンクシーの強烈な主張の大洪水を浴びることになるので、来場の際は心して臨むことをオススメする。

「感動は考える力を喚起させる」と言っていたスーパー歌舞伎で有名な三代目市川猿之助の言葉を思い出す。アートや芸能には、人々の心や思考を突き動かす力がある。バンクシーだって最初は迷惑な落書きだった。今や「アート」である。三代目市川猿之助もスーパー歌舞伎を始めた当初は歌舞伎役者や専門家から「総スカン」だったという。今や歌舞伎界も評価を改め「天下の猿之助」。

私は思う。他人の評価なんて知ったことか。世間の流行なんて気にしない。自分が「面白い」と思ったものに評価を与え、好きなものを好きって叫びたい。今、私の心が動くものは何だろう。新しくて刺激的な人間たちに出会いたい。そして、この連載「こやたの見たり聞いたり」で紹介していきます。次回もどうぞお楽しみに。

【筆者紹介】
活弁士・麻生子八咫(あそうこやた):父麻生八咫に弟子入りし、10歳の時に浅草木馬亭で活弁士としてデビュー。
活弁は、サイレント映画に語りをつけるライブパフォーマンスです。どうぞよろしくお願いします。

※写真の転載を固く禁じます。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

公式月刊浅草ウェブ|メールマガジン登録

【登録時間わずか1分】

公式月刊浅草ウェブでは、浅草の文化芸能を知りたい方へ毎月1回メールマガジンを配信させて頂きます。

ご興味ある方はぜひご登録よろしくお願いします!

※記入項目は3項目(メールアドレス・お住まい・ご興味持った理由)

※クリックしますとGoogle Formへジャンプします。

個人情報の取り扱い・プライバシーポリシーをご確認下さい。


メールマガジンご登録はこちらです