「奥武山・大琉球神楽」心と表現<第7回>熊澤南水|月刊浅草ウェブ

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月刊浅草ウェブ

半年後、夏のテンブス館のご案内を差し上げたところ、嬉しいことにチケットのお申込みが届いたのである。
〝舞台を直接ご覧頂ければ、私の世界をご理解いたゞける〞
ところが、その後何のご連絡もなく1年半が過ぎた今年の1月、突然件の上地氏から一本の電話が入ったのである。
〝南水さんにお願いしたい事がありまして、今度沖縄へはいついらっしゃいますか?〞
〝明後日那覇に入りますが……〞
〝それは丁度良かった。空いている時間に是非沖宮までご足労頂けませんか?〞
細かい内容は何もおっしゃらず、再会の日時だけを約して、旧正月の元日にあたる2月8日、ひとりで神社を訪ねたのである。
通された一室には既に56名の方が、配られた用紙に目を通している最中で、名刺交換の後に、改めて今回の説明を伺いながら、身体の中の血潮がざわざわと騒ぐのを感じていた。
「奥武山・大琉球神楽」、その第1回を6月26日㈰県立武道館・アリーナ棟で、昼夜2回公演を計画していると云う。
演出を担当すると云う安田氏が、細部に渡って説明して下さるが、少なくとも私自身、これまでに体験した事のない、大イベントに参加出来るらしい。
神楽と云うとすぐ頭に浮かぶのが、神や祖先を祀る祭祀の中で、五穀豊穣、無病息災を祈る儀式として神前で奏でる舞楽が一般になっている。〝お神楽〞と言われているのがこれである。しかし、今回関わってみて私も初めて知ったのだが、神話伝説を劇化したジャンルも、この神楽の一環だと云う。日本古来の宗教「神道」のルーツ、神話と神事を解りやすく劇化し、多くの人に楽しんで貰おうと云うのが、今回の目的である。
平和の使者(メインゲスト)を中心に、沖縄県内外の芸能で構成されたエンターティメント創作神楽、それが「奥武山・大琉球神楽」である。
初の平和の使者に選ばれたのは、世界的和太鼓奏者林英哲氏、他に琉球舞踊、琉球太古、ベリーダンス、抜刀術、書道の大家によるパフォーマンスに加え、地元の青少年の協力で創作エイサーや旗頭が奉納されたのである。力強い演奏で終始舞台を牽引していたのが、地元のミュージシャン日出克さんとそのお仲間である。
古事記に記されている神武天皇が、沖縄伊平屋島に所縁があると云う伝承をもとに、今回のストーリーが展開されるのだが、これを出雲観光大使でもあり、全国に創生神楽の奉納を続けている、表博輝氏が脚本にまとめ、自らも神武天皇として舞台を務めたのである。
佐渡「鬼太鼓座」の創設に参加、その後「鼓童」創成期の演出を手掛け、今やオーケストラとの共演で、世界的にその名を知られる、林英哲さんの太鼓は圧巻だった。
「祈り」と云うテーマの下、太鼓の持つ波動は、人々の心の中にグングン押し入って来る。平和の使者に相応しい、存在感のあるメッセンジャーだった。
私の役目は、物語全体の解説を務める、言わば水先案内人、出番は第1章を映像に合わせナレーションで、 2、3、4章は姿を現わし物語を紡いでいく。舞台下手に専用の御立ち台が作られ、照明が当てられると、広い武道館に一瞬静寂が走る。それなりにインパクトもあり、重要な役処でもある。
地元沖縄の人達の目に、特に新鮮に写ったのが、幕明けに奉納された「神なぎの舞」、この日は熊野社から4人の巫女さんが来沖、清楚で美しい舞姿を披露して下さったのである。
総勢300人弱と云う出演者を、見事にまとめたのが、若干40歳の演出家安田辰也氏である。スウェーデンサーカスからスカウトされ、ピエロとして世界ツアーに参加した経験を持ち、又、ジャグリングの名手でもあるとか。優しく温かいそのお人柄で、魔術のように出演者をまとめ、本番は一糸乱れぬ入退場で、観客を大いに感動させたのである。
〝やはり南水さんにご登場頂いて、ストーリーがグンと解りやすくなりました。来年もよろしく〞。上地氏からの嬉しいひと言だった。

熊澤南水, 2016年

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