「巡礼・行脚」心と表現<第6回>熊澤南水|月刊浅草ウェブ

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月刊浅草

庵主のTさんとは、過去にも数回に渡りお声を掛けて戴いている間柄でもあり、寺内お一人暮らしと云う気安さも手伝って、里にでも帰って来たような気分、しばらくは女2人の賑やかなおしゃべりが続いた。
8日に昼夜2回の公演を済ませ、9日には同じ西条市内の「金剛院」さんに移動、翌日は午前中に同寺が経営する幼稚園に出向き、5歳児80名を対象にした読み聞かせを、すぐお寺へ戻り昼食後2時から昼の部、 6時から夜の部と、大人を対象にした作品2題をお聞き頂いたのである。この「金剛院」さんは、友人の画家Tさんの姉上の嫁ぎ先と云うご縁で、過去にも何回かお邪魔しており、地元の皆様とも交流を続けていたご縁で、旧知のなつかしいお顔が揃って、48ヶ寺目も無事務めることが出来た。
四国での最終日となった12日は、西条から特急でひとつ隣りの駅「新居浜」へ。迎えの車で49ヶ寺目となる「西正寺」さんへと急いだ。この日は午前中から、講師の先生を招いて「蓮如上人」についての勉強会があり、それに参加されたお檀家の皆様が昼食後、今度は私の「語り」を聞いて下さったのである。
愛媛県内での6公演を終え、私はそのまゝ岐阜へ移動、先ず午後3時過ぎの特急「しおかぜ」で瀬戸内海を渡り、約2時間で岡山へ、新幹線「ひかり」で大阪へ出て、「こだま」に乗り替えて米原で下車、在来線で「大垣」へと云うコースである。
明日すぐ使う衣裳だけは、スーツケースに入れて持ち歩かねばならず、今年75歳にならんとする老婆の行動としては、驚きのハードさではある。
少なくとも今日中に目的地に着けば……と、JRの窓口でのやりとりが功を奏し、意外に早く午後9時頃には、大垣駅前のアパホテルにチェックイン出来、岐阜での6ヶ寺を進めることが出来た。

岐阜での最初の会場は、揖斐郡池田町の「宝光寺」さんで、池田町の女性セミナーの主催となり記念の 50ヶ寺目となった。前持って地元紙2社に取材を依頼、若い2人の記者さんが熱心に耳を傾けて下さって、この模様が早朝大きくカラーで報道されると、これが思いがけない反響となって、以降の予定会場が大入満員になっていくと云うおまけが付いたのである。
9時40分開演と云うことで、私自身も7時過ぎには支度を整えてホテルを後に、大垣駅からローカル線養老鉄道に揺られて30分弱、終点の揖斐駅まで通勤の日々となっていったのである。
斯くして、16日までの4日間で計6公演、四国での公演をプラスすると10日間で12公演、それも全部違う作品を語ることになったのだから驚きである。追っかけも出て来るだろうから、是非そうして欲しいと云う主催者からの申し出を受けての実現であったが、緊張の糸が切れないようにと、自己管理に気を配りながら、何んとか切り抜ける事が出来た。
今回この岐阜での公演を、一手に纏めて下さったのが、きものコレクターの樋口冨喜子さん。彼女は昨年自身が持つ3000枚のコレクションをギネスに申請、認められて一躍その名を知られるようになった方で、新聞はもとよりテレビや雑誌などにも多く取り上げられている地元の有名人、殊に「なんでも鑑定団」に、初代龍村平蔵作の丸帯を持って登場し、一千万円の値段が付いて本人はもとより、周囲の我々もびっくりしたものである。
その樋口さんが今回の公演全てに同行、ご自慢のコレクションの中から、私の語る作品に合わせて、然りげ無くきものと帯を飾って、お客様の目を楽しませて下さったのである。例えば、山本周五郎の「二粒の飴」には、江戸時代の打ち掛けを、米沢藩の家督相続を舞台にした「不断草」では、米沢の特産紅花紬の逸品を、樋口一葉の「十三夜」には、月と兎をあしらった小袖と言った具合に……観客は目と耳両方で作品の世界に浸る事が出来たのである。
最終日は、早朝にホテルをチェックアウトし、いつものようにローカル線で揖斐駅まで……樋口さんの車で、いくつもの山を越え、揖斐川町春日美束と云う山奥の「発心寺」さんへ。岐阜に入ってからは連日好天に恵まれていたが、あいにく最終日は雨の一日となってしまった。しかし、そんな中を新聞で情報を知った方々が、マイクロバスを仕立てて駆けつけて下さったのである。
午前中の公演を終え、昼食もそこそこに55ヶ寺目となる「勝善寺」さんへと車を走らせる。ここはもう岐阜県と滋賀県との県境だと云う東横山、御年92歳になられると云うご住職は、NPO法人ロシアとの友好・ 親善をすゝめる会の会長を務め、毎年のように異国に眠る英霊へ鎮魂の旅を続けていると云う。頭が下がる。
「同行二人」を胸に、88ヶ所を巡礼するお遍路さんではないが、私の「百寺語り巡礼」の旅は、沢山の方々の力を借りて、今ようやく道半ばの峠を越えたのである。満願のその日まで、気を抜く事なく、心と身体の健康を守りながら……。〝来年、既に5ヶ寺のお申込みを受けていますよ〞
樋口さんから、嬉しいご連絡を頂いたのは、帰宅した翌日の事だった。

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