「瓜生岩子の生涯」心と表現<第17回>熊澤南水|月刊浅草ウェブ

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4月18日(火)、私は山形新幹線「つばさ」の車中で、ひとり「瓜生岩子の生涯」に目を通していた。明日開催される没後120年の記念イベントに参加する為、米沢経由で熱塩へ向う為である。明治30年69歳で生涯を閉じた岩子刀自の、今年は没後120年の節目を迎えているのだ。
会津一刀流剣詩舞道宗家澤田氏は、瓜生岩子刀自の功績を後世に伝えようと、「顕彰会」を立ち上げ活動しているお一人である。
昨年の夏、浅草寺の境内に在る岩子像の前で法要が行われた際、私も参加し名刺を交換させて頂いたご縁で、今回私にもお声を掛けて下さったのである。
米沢駅で澤田氏の出迎えを受け車で一路熱塩へ。今日の東京は4月にしては異例の暑さ、26.1度を記録し4日連続の夏日となっていた。ところが米沢から喜多方への国道121号線には、信じられない程の雪が残っていて、一面の雪景色に思わず目を瞠った。

熱海の宿はもちろん「山形屋」、当主の瓜生泰弘社長は、岩子刀自から数えて5代目になるそうで、温厚なお人柄に加え即戦力となる働き盛り、周囲からも大いに頼られる喜多方の名士である。
「山形屋」のキャッチフレーズが〝一流の田舎〟、言い得て妙とは正にこの事か・・・と、数年前初めて泊まった時に、心の底から頷いたのを思い出した。
「南水さん、浅草にゆかりの方なら是非『瓜生岩子の生涯』を語って貰えないだろうか」
今から10年程前、喜多方公演で地元を訪ねた折、市長を表敬訪問する機会があり、その時のS市長のひと言が瓜生岩子との出合いであった。地元の誇りでもある福祉活動家の瓜生岩子の存在を、もっと多くの人達に知って貰いたい・・・と云うのが市長の狙いである。福祉課の協力で関連著書を読み重ね、私なりの『瓜生岩子の生涯』をまとめ、先ずは地元の小・中学校での公演を重ねたのである。

生誕180年にあたる平成20年には、イベント蔵での催しに発展していった。
「山形屋」で熱塩の湯に浸り、ぐっすり眠って、その午前中は菩提寺でもある示現寺での供養会が終る頃には雲間からうっすらと陽が差し込み、奉納吟舞の舞扇が美しく光った。
【雲割れて光かがやく里の雪】
参加者の脳裏に一瞬浮かんだ岩子刀自の一句。没後120年をこうして供養して下さる人々に、浄土から放たれた一筋の光だったのか。

会場を喜多方市内の文化施設「喜多方プラザ」に移し、午後からの「顕彰のつどい」に備える。同じ市内でも熱塩は標高も高く、三方を山に囲まれている為気温はかなり低い。車で15分位走っただけのプラザ周辺は、桜の花が咲き始め、名物の枝垂桜を観るツアー客が街を往き来していた。
昼食をゆっくり摂っているいる暇も無く、午前中の喪服から午後のテープカットの為の衣装に着替え、それをまたパネルディスカッションから「語り」へと移る為の衣装へと、3度のお色直しをしなければならず、時間との戦いが続いたのである。

彼女の生涯は、何処か私のそれと重なる気がして、語りにも熱が込もる。
裕福な少女時代が父の死と共に一転、逆境の中で迎える青春、40歳前後で生涯の指針に出合い一筋の道を歩き始める。目指す道が、福祉と語りの違いはあるが、信念を持って真っ直ぐに歩く姿に変わりは無い。瓜生岩子刀自を、是非次の紙幣の肖像に、これが私の夢である。
明治29年24歳の若さで逝った樋口一葉、その翌年69歳で旅立った瓜生岩子。短いとは云え、同じ時代を生きた2人の女の生き様に学ぶ事は多い。
【老いの身のながかりざりし命をもたすけたまえる慈悲の深さよ】
亡くなる2日前に詠んだと云われる、岩子刀自の辞世の句だが、銅像に刻まれた笑顔の底に秘む、強い信念が見て取れる。

熊澤南水 プロフィール
朗読家。
1941年東京生まれ。小学6年生のとき青森県西津軽から東京に移り、そこで津軽なまりを笑われたのが言葉へのこだわりの第一歩だった。
40歳のころ、偶然手にした一本のテープ、朗読家 幸田弘子さんが語る樋口一葉の十三夜が心に新たな、風を吹き込み、言葉への想いをつのらせた。以来、俳優 三上左京氏指導のもと、“南水ひとり語り”を全国各地で繰り広げている。
浅草の洋食ヨシカミの元女将が語りの世界で彩る。
◉女優 吉永小百合さんとともに下町人間庶民文化賞を受賞
◉文化庁芸術祭大衆芸術部門優秀賞を受賞


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