「北帰行…?」心と表現<第10回>熊澤南水|月刊浅草ウェブ

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熊澤南水, 月刊浅草ウェブ

11年前の枝幸での公演は、鮮明に残っている。ゴールデンウィーク明けの5月8日、私はコートも着ずに飛び立ったのだが、現地は予期せぬ雪景色に覆われ、それも時間と共に積っていったのである。明日の会場は、実行委員会の皆さんが相談して、高台の見晴らしのいい会館に決まっていた。しかし、この雪では車が坂道を登るのは難しいと判断し、急遽麓の食事処「ニュー幸林」に場所を移しての開催となったのである。ゴールデンウィークを境に、タイヤを履き替えるのを常にしている道民も、時節はずれの突然の大雪には多いに慌てた模様だが、主催者の賢明な対応で、何事も無かったかのように実現出来たのである。
翌る朝、雪の積もったホテルの玄関前での記念写真が、いい思い出となって今、私の手許に残っている。
11年と云う時間の経過が、昨日の事の様に甦ってくる。
今回は「百寺語り巡礼」の企画を知った有志の方々が、実行委員会を作って上湧別の明光寺さんを会場に開催される。〝良いものを見よう聞こう会〟の会長を務めるご住職が企画に賛同して下さり、会場提供はもとより、チラシ、チケット作りなど一手に引き受けて下さったとか。お陰で当所用意されたチケットは完売、和やかな雰囲気の中で57ヶ寺目、北海道での第一歩となったのである。

オホーツクの遅い春が訪れると、一気に花の季節へ…その中でもここ上湧別は近年チューリップで有名になり、道内はもとより海外からの観光客も沢山訪れて賑わいを見せるのだとか。オランダの風車を背景に、澄んだ青空の下、200品種20万本の色とりどりのチューリップを想像しただけで胸が踊る。次回は是非その頃に。
紋別市内のホテルで一泊し、翌日は市内の博物館で開催されている生田孝子さんの個展「和・モダンアート展」へ。北海道での最初の公演地佐呂間の主催者Mさんとご一緒に、オホーツク流氷館へ足を運んだ折、そこで開催されていた個展を覗いたのが、生田さんを知る切っ掛けだった。裂き織り作家として多くの受賞歴もある彼女だが、古布を使った手仕事の技に魅かれ、何点かを購入したのが縁で交流が始まった。
翌年、彼女の主催で紋別公演に発展、これが網走へ延び、稚内まで根を張る事になったのである。年前、沖縄の国際通りで、〝南水さーん!〟と声を掛けられ振りむくと、生田ご夫妻が立っていた。鳩が豆鉄砲を食らうの喩え通り、一瞬わが目を疑いながら再会を喜び合ったのである。ご主人の心臓病に暖かい土地での療養をと医師の進めで、冬の間だけ沖縄暮らしを楽しんでいるのだとか。
そして今年の2月、私は26年目の訪沖で2週間の滞在、生田夫妻はホテルからマンスリーマンションへと住み替えて、4月半ばまでの長期滞在との事、すっかり現地に馴染んで、北の友は南の島に溶け込んでいたのである。
「秋に節目の個展を考えているの、最終日を飾って何か語って下さらない?」
「喜んで!」
と、言う訳で紋別市立博物館「和・モダンアート展」会場は、椅子を並べただけでそのまゝ語りの会場へと変身、生田孝子と熊澤南水のコラボへと発展したのである。本州はもとより遠くは鹿児島から駆けつけて下さった友人達に囲まれて、温かい雰囲気の中で作品の世界に浸って下さったのである。
目指す道はそれぞれ違ってはいるが、ほゞ同じ時代を生きて、似たような苦労を重ねた2人の女、ヒョンな出逢いがこうして長い時間を結びつけて、お互いいい刺激になっている。
「ここが、紋別一の繁華街なのよ。」
夕食後、二次会と称して出た街で、珍しい光景に遭遇した。昭和の、それもかなり以前の面影を、そのまゝ残したような飲食街がそこにあった。
「時々、映画のロケに使われているみたいよ。」
高倉健や鶴田浩二が、ヒョイッ⽑と出て来そうな、そんな雰囲気が漂っている。その一角、急な階段を降りたところに、その店はあった。
髪を見事なアフロヘアーでまとめたママさんに、津軽訛りがあった。集団就職で北海道へ渡り、そのまゝ住みついたのだと云う。この街並と彼女の人生が、何故か哀愁を誘う一服の絵となっている。私達を迎える為に、彼女が精いっぱいのもてなしの心を込めた肴は、どれも絶品だった。〝一期一会〟、旅の妙味とは正にこれである。止り木に座る私達も、カウンターの向うで微笑む彼女も、お互い残された時間はそう長くはない。ならば、今を精いっぱい。
〝ブラボー〟

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