岡本文弥(新内節太夫)の名随筆「気まま黄表紙」<第3回>|月刊浅草ウェブ

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○ワイン

ぶどう酒というよりワインと言った方がハイカラで現代テキでよろしい。そのワイン好きだというので頂戴もの、ポルトガルだのオーストラリアだの、無論メードインジャパンもある。この間国立劇場の山川直治氏が見えた時「これはフランス」と言って小さなカップで乾杯をした。山川さんも「うまい」と言ってくれました。翌る日門人に報告したら「あら、これはフランスのワインの空き瓶に入れて私の持って来た梅酒ですょ」と呆れ顔。ああ、私のワイン好きもアテにはならぬ。山川さん、ごめんなさい。

○無神経

ある新聞の編集委員が政府高官なにがしを訪問した時のことー

「筆者はこの人とさしで会うのは今回が初めてであった。髪の手入れから靴の光り具合まで、すきのないおしゃれが、まず目についた」が、しかし「話の間に、当方の渡した名剌を折り曲げ、くしゃくしゃにしてしまった。おしゃれほどには、他人への神経はこまかくはないようであった」とある文章を読んで呆れ返った。私も「これはこの次の演奏会の番組です」と渡した印刷物を、目の前でいつの間にか丸めたり、しわ苦茶にされたり、こちらで困ってしまう経験あり。

然し現在の政府高官なんてのはみんなそんな程度じゃないのですか、私は弗敬していません。

○浪曲レコード

伝法院での写真集「昭和浅草伝」出版記念会席上、80歳以上の浅草の会々員に祝福の今戸焼き招き猫贈呈あり、手ずから笑顔でそれを受けた山中勇吉さんが1月9日胃ガンのために死去された。81歳。私はお付き合いはなくレコード店イサミ堂の主人で浪曲を中心としたあらゆる芸関係の、1万枚を数えるレコードの蒐集者としての噂を聞いていながらそのお店へ立ち寄ったこともない。哀悼合掌。お店は遺族や浪曲研究の芝清之さん達によって守られるらしくこれは大慶至極というべきでしょう。

それに関連して待望久しい京山恭為のレコードが関西で発見されたという噂。明治末期、私は子供で本所に住んでいた。辰雄、峰吉、嘉市、消吉、愛造、勝太郎、直松、円車、々々々、三味線戸川花助健在の頃、探偵物を語って独特のぶっきら棒のフシ、人物描写の妙、また明晩が待ち切れなかった魅力の恭為、当時北二葉町の路地奥の宅の前や、外出の姿を追ったり、70年の昔が思い出される。大震災の後大阪の、大入りの寄席で思いがけなくその恭為の、まだ衰えぬ芸を聴いたり、奈良で恭為の辻ビラを見たりした。大阪の林喜代弘氏が真偽を確かめコピーしてくれるという。浅草伝法院の近くに新恵比寿亭、小桜亭と、格のいい2軒の浪花節定席のあったことを知っている人も、今は殆んどいないかも知れない。万事夢の如し。

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