「沢 竜二(さわ りゅうじ)」の波乱万丈俳優記<第16回>月刊浅草ウェブ

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<第16回~巨匠・稲垣浩監督とともに消えた幻の無法松~>

あれは、渋谷仁丹ビルの芸能人御用達バー『ドンキホーテ』で、可愛がっていた太地喜和子と飲んでいた時のこと。酒豪で知られる喜和子が、自分よりも飲める女を紹介するという。バイオリニスト兼女優の佐藤陽子だった。それがご縁で、私は彼女とご主人の池田満寿夫氏が司会を務める番組のラスベガスでのロケ(景気のいい時代だった!)に参加、すっかり意気投合して、楽しい時間を過ごした。
陽子ちゃんと再会したのは、映画『地獄の蟲』の現場だった。この映画は、巨匠・稲垣浩監督が戦前に阪東妻三郎主演で撮ったが、時節柄、内容の大幅変更を余儀なくされてしまったといういわくつきの作品。今作(79年版)は、稲垣浩:脚本/監修、山田達雄:監督で、変更前の内容そのままに無声映画としてリメイクされるという。主演が阪妻の息子である田村高廣というのも、感慨深い。
高廣さんも、食前に一合升を十個も空にするほどの、酒豪である。しかし、酒なら私とて負けちゃいないから(笑)、お互いよく飲み、冗談を交わし…他の共演者も交えて、撮影後は大宴会となることも多かった。

そんなある日、私は稲垣先生に、酒席から別室へ呼び出された。先生は神妙な面持ちで、「俺は、『無法松の一生』を過去に二回撮った。最初の主演は阪妻、二回目が三船敏郎。…次やるとしたら、誰にすると思う?」と聞いてきた。「難しいですね。九州弁の台詞だし、秘めた想いを表現する、内面の芝居が出来る役者となると…」「お前だよ。」「えぇっ!私…ですか⁈」「そう、お前が三度目の無法松だ。『地獄の蟲』の芝居を見て、俺はお前に決めた。東京へ帰ったら正式にオファーの手紙を出すから、その心づもりでいてくれ。」
これには心底驚いたと同時に、武者震いを覚えた。また、大きな〈波〉が来たようだ。しかも今回のは、相当デカい。ついに、大々的に世に出るチャンスが巡って来たのだ‼

後日、約束通りに届いた稲垣先生からの手紙には、半年後のクランクインに向け、太鼓の稽古など、入念な準備をしておいてくれと書かれてあった。そしてその数か月後には、記者発表の日時が決まったら、追って報せるとの連絡が。しかし、その吉日は、永遠に訪れなかった。無情にも、ある朝新聞を開いた私の目に飛び込んできたのは、【稲垣浩監督、永眠】の見出し…!

これが、幾度目の波乱だったろう?大波に乗りかける度、横波にさらわれてしまう、私の芸能人生。これだけ嵐の波間に放り出されれば、逆境に強くもなるはずだ…(笑)!

こんな風に辛い経験も多々あったけれど、我ながら幸運だったと思うのは、素晴らしい共演者たちに恵まれてきたこと。喜和子にしても、高廣さんにしてもそうだが、やはり私は、本当に芝居が上手く、かつ魅力的な役者が好きだ。古谷一行も、その一人。彼とは、印象深い思い出がある。

一行が主演を務める「金田一耕助シリーズ『人面瘡』」で共演した時のこと。極寒の天城で行われたロケは、一緒に早朝の湖へ入るシーンを撮ることになった斉藤由貴が、「沢さん…私達、死ぬかも解りませんね。」と呟いた(笑)くらい、過酷なものだった。当初、私は早めに現地入りする予定だったのだが都合が付かず、遅れてしまった。共演者の一人、淡路恵子から「昨夜は古谷さん、沢さんと飲むのが凄く楽しみだって、何度もホテルの外に出ては沢さんの到着を待ってたのよ。」と聞かされ、私も大変残念に思ったが、結局その時はすれ違いのまま、会えず終いとなった。 それから暫くして、古谷一行が別のドラマの相手役と一夜を共にしたとの報道が流れ、何となく気になってテレビをつけると、押しかけたマスコミに対して彼は事も無げに、「あぁ、(彼女とは)寝たよ。惚れたから、寝たんだ。何が悪い?」と言い放ったのだ。その潔いことと言ったら!
翌日、ゴルフに出かけた私は、その時の彼の言動がいかに格好良かったかを、食堂で運転手相手に興奮気味に喋った(笑)。すると、何だか運転手の様子がおかしい。その目線を辿って振り向くと、何とそこには一行が、奥さんと一緒に立っているではないか(笑)!次に会った時、丁重に誤ると、「そんなの、いいんですよ!あの件は、俺が悪かったんだから。」と、一切言い訳をしない。役者としてのみならず、私は彼の男らしさに、心底惚れこんでしまった。

今回は、先日の痛ましい熱海の土砂災害から、隣地で不慮の死を遂げた喜和子のことを思い出し、彼女から縁の繋がった一流の映画人・芸達者な役者仲間らの話をした。
悲惨な災害にコロナ禍…暗雲たる世の中だが、天変地異やウイルスにどんなに虐められようと、せめて人間同士はいがみ合わず、お互いを思い合い、助け合おう。最後に気力を奮い立たせてくれるのは、人と人との絆なのだから。愛する人達との交流を、どうか大切にして欲しい。

※掲載写真の無断使用を固く禁じます。

【いよいよ明日公開】沢竜二プロデュース公演(江戸東京博物館)

沢竜二プロデュース公演, 江戸東京博物館

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