【人の心に寄り添う銀師・上川宗達】こやたの見たり聞いたり<第4回>月刊浅草ウェブ

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「僕のおじいちゃんが、大相撲の優勝カップを作ったんです」
と語るのは、江戸末期の初代平田禅之丞から十二代に亘って技を継承する銀細工職人・銀師(しろがねし)の家に生まれ、自身も銀師となった上川宗達(かみかわそうたつ)さんである。

私(こやた)が、台東区蔵前にある宗達さんご夫妻の営むショップ兼工房「宗達アートクラフト」を見つけたのはまったくの偶然だった。父が約束の時間に遅れて到着するというので時間を持て余していた時、偶然通りかかったオシャレなお店のアクセサリーに目を惹かれて店内に入ったという次第。なんと、職人である宗達さんご本人が接客をしてくださった。

銀師・上川宗達さん(42歳)は、台東区根岸の生まれ。4人兄弟の末っ子として生まれた宗達さんは、小さい頃はお母さんっ子だった。父親である上川宗照さんは工房で寡黙に作業していることが多かったから、そんなに喋った記憶はない。代わりに、いつもお母さんがお父さんの仕事について話してくれた。「お父さんって、かっこいいでしょう?」と母に言われて、純粋にかっこいいと思った。

当時住んでいた自宅は、1階が仕事場で、2階が居住スペースだった。トイレが1階にあったので、夜降りていくと、裸電球の下で銀を磨き、銀を叩く父の姿があった。ごく自然な流れで、自分も銀師になると心に決め、小学校の卒業文集にも「将来は銀師になりたい」と書いた。

中学生の頃も、家に帰ると銀細工を作った。正式に父・宗照さんに弟子入りしたのは18歳の時だった。父から伝統の技を学びつつ、「更に広い視野を持つために、外に学びに行きなさい」という父の勧めで、20歳から27歳まで人間国宝の金工師・奥山峰石先生の下で修行を積んだ。

最初に峰石先生に言われた言葉は、「仕事の前に、まず身だしなみからカッコよくなりなさい」だった。「清潔じゃない床屋さんに行きたいと思うかね?」と言われた時、「あぁ、なるほど」と思った。とても厳しい先生で、先生に認められるために夜な夜な図面を10個ほど作っても、全部ボツになることはしょっちゅうで、そのたびにしつこく食い下がった。

「峰石先生から最も学んだことは何ですか?」と聞いてみると、宗達さんは「やはり、人間力でしょうね」と言った。作り手の人間性は、作品にとても反映されるのだという。自分がかっこよくないと、かっこいい作品はできない。真摯に向き合わないと、魂のこもった作品はできない。

先日、お店に1人の年配のご婦人が来店した。聞けば、長年連れ添った最愛の旦那さんを亡くしたばかりなのだと言う。そして、ご仏壇に毎日お供えする水入れの銀器を宗達さんに作って欲しいとのことだった。生半可な気持ちでは作れない。責任重大な任務を拝命し、心が熱くなった。ずっと大切にして欲しいから、お客様の心に寄り添いたいから、「この人のために作る」と魂を込めて製作した。そういう気持ちを込めたものは、特別なものに仕上がる。大量生産では実現できない手作りの温かさがある。

お客様には、まず「好きな時間は何ですか」と聞くようにしているそうだ。それぞれの大切なひとときを宗達さんも一緒に大切にしたいからだ。人によって返答は異なる。子供を寝かせてゆっくりとお茶を飲む時間、家族団欒で賑やかに過ごす時間、読書をしている時間、ペットの散歩をする時間…。それらの日常に寄り添いたい。

宗達さんは言う。「「伝統」というと「和」のイメージが強いですよね。でも実際には、ほとんどの人たちが洋式の生活をしています。だから洋式にも合うような品を作ろうと思ったのです。今を生きる人々に実生活の中で使ってもらって、伝統の技を身近に感じていただきたいですね。」

宗達さんのお店は、敷居の高い「伝統工芸」を感じさせない。伝統的な銀器の名品も並ぶが、若者が身につけたくなるアクセサリーや、日常をおしゃれに彩ってくれる食器、ユーモア溢れるアート作品もある。少し暖かくなってきたこの季節、ちょっと足を伸ばして、「宗達アートクラフト」へお出かけしてみてはいかがでしょうか。「伝統」は難しそう…。でも、思い切って一歩踏み込んでみたら、そこには優しくて真っ直ぐ生きる人たちの世界が広がってる。

上川さんご夫妻。作品の世界観同様、素敵なお二人!
日々を彩る、優しく真っ直ぐな作品たち。

【宗達アートクラフト】 東京都台東区寿1-6-6-1F ☎03-6231-7954
https://www.soutatsukamikawa.com/

【筆者紹介】
活弁士・麻生子八咫(あそうこやた):父麻生八咫に弟子入りし、10歳の時に浅草木馬亭で活弁士としてデビュー。
活弁は、サイレント映画に語りをつけるライブパフォーマンスです。どうぞよろしくお願いします。

※写真の転載を固く禁じます。

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