先日、東海大学の観光課の学生たちの研究発表を聞く機会があった。
テーマは「浅草」で、グループに分かれて浅草を探索し、観光という視点から浅草の課題を見つけ、その解決策を発表するというものだった。
例えば、敷居の高い伝統工芸は、可愛いカフェで気軽に触れられる機会を作るとか、昨今外国人に人気が高い日本の包丁は、日本人にも注目してもらえるように、調理師学校で実際に触ってもらう機会を作る、とか。「なるほどなぁ~」と感心するものが多かった。
実際に浅草を歩くことで発見できることはたくさんある。
そんな若者たちに刺激を受けて、私も浅草を歩いてみようと思った次第である。
浅草は昼間のイメージが強いが、実は夜景も綺麗である。
特に9月の夜は長く、「長月」とか「夜長月」などと呼ばれ、今月は夜を楽しむシーズンとしては絶好の時期である。
ちなみに、今年は9月17日が中秋の名月(十五夜)だそうだ。まだまだ日中は暑い日が続くが、夜の浅草を気ままに歩きながら、新しい発見ができたら嬉しい。
浅草人には見知った光景かもしれないが、初心者向けコースということで悪しからず。
1. 浅草文化観光センターから浅草を一望しよう!
まずはどこを歩こうかと考えながら、浅草文化観光センターの8階へ上がってみる。浅草の街やスカイツリーを一望できる展望テラス(無料)があるからだ。そこで浅草の日の入りの風景を楽しむことができる。刻々と空の色が変化していく様はとても美しい。また、遠くまで見渡せるので、浅草の全体的な位置関係を把握できる。エレベーターが混雑することもあるので、健脚な人は階段利用がおすすめ。
写真①展望台から眺めた浅草寺と仲見世通り
3. 浅草のシャッター「浅草絵巻」を楽しもう!
雷門をくぐって、浅草仲見世通りへ一歩足を踏み入れると、かの有名な東京芸術大学平山郁夫教授と、福井爽人助教授監修のシャッター絵がずらりと並んでいる。
仲見世通りは全長約250メートルあり、どのシャッター絵も浅草にちなんだ絵柄が描かれているので、さながら浅草の大絵画展だ。
浅草寺縁起、三社祭、ほおずき市、金龍の舞、出初式…。浅草の歴史や伝統行事の情景をゆっくり鑑賞しながら歩くのは楽しい。
シャッター絵を楽しめるのは仲見世通りだけではない。
浅草界隈のあちこちのお店屋さんでも見られるので、ぜひ開店前と閉店後しか見られない貴重なシャッター絵を探して楽しんでほしい。
写真②仲見世通りのシャッター絵
3. 隅田川沿いをゆったりと歩こう!
浅草から東京スカイツリーの方角へ歩いていくと、隅田川がある。
川沿いは隅田公園として整備されているので歩きやすい。スカイツリーは毎日、時刻によってライトアップが変わる。少し歩き疲れたな〜と思った頃に、オシャレなワインバー「ピンコ パリーノ」(浅草7-1-6)と出会った。
私はお酒を飲まないので、ソフトドリンクがあるか尋ねてみたら、宇和島のみかんジュースがおすすめだというので、小休憩。
オーナー店長の浅井さんに、この周辺の見どころを聞いてみたら、近所の待乳山聖天さんで2年に一度開催される浮世絵展があり、そこで見た「待乳山山谷堀夜景」(歌川広重作)が素晴らしくて、とても感動したのだそう。
その絵を好きすぎて、その浮世絵をモチーフにしたオリジナルTシャツを作ってしまったのだとか。
なんやかんやと長話をして、これも何かのご縁だと思って、Tシャツを購入してみる。
一人でぶらぶら歩くだけだった夜散歩が、人との出会によって忘れられない1日となった。感謝。
写真③隅田公園から見た東京スカイツリー
4. 浅草六区エリアのネオンを楽しもう!
そこからぐるっと観音裏を回って、浅草六区へ辿り着く。浅草六区は浅草寺の西側に位置し、かつて日本一の劇場街だった芸能エリアである。
21時も近くなるというのに、浅草演芸ホール前の5差路には人だかりができていた。
なんとドンキホーテが夜景スポットになっていたのだ。
私にとってのその場所は、今なお「浅草大勝館」が生きている。
大勝館は、戦前は映画館として、戦後は紆余曲折を経ながら大衆演劇を上演していた劇場だ。
私も昔は大勝館で活弁公演をやっていた。
ある日、大勝館の小ホールで麻生八咫と子八咫の活弁公演をやっていた時、大ホールから藤田まことさんのマネージャーさんがやってきて「藤田がお会いしたいと言っているのですが」といらっしゃった。
残念ながら、開演の直前で、お客様を待たせるわけにはいかなかったからお会いできなかったが、そんな大御所俳優さんとニアミスをしたのも良い思い出だ。
写真④新たなネオンスポット「ドンキホーテ」前
昼間の喧騒から一転して、夜の浅草はとても穏やかである。ゆったりとした時の流れを楽しみながら、物思いにふける楽しさがある。
柔らかい照明が優しく灯り、観光・商売の場所から、人々の生活の場へと変貌していくような気配がする。時代はめくるめく変化するが、変わらぬ人々のぬくもり、人情があるとあらためて感じた夜の浅草散歩だった。