8月の真夏の炎天下の中、両手の鳴子をカチャカチャと鳴らしながら集団で「よさこ〜い、よさこ〜い」と躍動感たっぷりに踊り狂うのは、日本最大級の踊り祭り「高知よさこい祭り」(毎年8月9日〜12日開催)である。昭和29年に高知商工会議所を中心として発足したよさこい祭りは、今年で70回目を迎える。よさこいのルールはとても簡単で、鳴子を鳴らして前進しながら踊るだけだ。それぞれのチームがデザインした奇抜で華やかな衣装を身に纏い、自由な振り付けで楽しく踊る。音楽は「よさこい鳴子踊り」のフレーズをどこかに盛り込めば、あとはサンバだろうが、ロックだろうが、ジャズだろうが、ヒップホップだろうが構わない。伝統と各チームの独創性が融合し、常に新しい「よさこい」のスタイルを生み出していく。そんな自由な気風が、地域を超え、国境を超えて人々を魅了しているのである。
そして今年の高知よさこい祭りのパレードには、世界で初めてよさこいを踊るロボットが出場するというので注目が集まっている。今回は、そのよさこいロボットのお披露目会を見学させていただいたので、ここにご紹介したい。「アガモン」と名付けられた遠隔操作型のロボットは、クマのような、猫のような、はたまたエイリアンのような、不思議な容姿をしている。両手に鳴子を持ち、遠隔操作によって、手や頭や口を動かすことができる。車椅子の方、ご高齢の方、障害を持つ方、遠方に住んでいる方など、さまざまな事情によって現地のよさこいパレードに参加できない場合でも、アガモンを自分の分身として遠隔操作することによって、アガモンが踊り出し、その躍動感やリズムを追体験できる。
アガモンのロボット製作を手掛けたのは、インド人で京都大学名誉教授のラノジット・チャタルジー先生である。ラノジット先生は、「指さえ動かせれば、世界中のどこからでも遠隔でアガモンを動かすことができ、自分の「ノリ」をダンスとして表現してくれる媒体となる。アガモンという遠隔ロボットを通じて世界を繋げ、文化の発信や交流に役立てたい」と意気込む。ラノジット先生のロボット開発チームは、日本、インド、イギリスの三カ国に拠点があり、作業を分担しながら共同で開発している。先日のアガモンのお披露目会では、インドにいるエンジニアが東京にいるアガモンを遠隔操作し、アガモンの手を上下して鳴子を鳴らして人々を驚かせた。
いよいよ開催される第70回高知よさこい祭りの当日は、3体のアガモンが「カナバラバ」というよさこいチームのメンバーとしてパレードに出場する。そのうちの1体は、生まれつき脳性麻痺の障害を持ち車椅子生活を送っている鱒渕羽飛(ますぶち・つばさ)さん(21歳)が、東京から遠隔操作をする予定だ。
その日初めてアガモンの操作体験をした鱒渕羽飛さんに感想を聞いてみたら、「(アガモンは)とてもかわいいと思いました。今まで自分は祭りで踊ったことがないので、遠隔という形でも参加できるのはとても嬉しいし、楽しみです。操作も簡単で自然でした。コマンドがたくさんあったので、当日までに上手く使いこなせるようになって、一緒によさこいを踊りたいです」と満面の笑顔で返してくれた。長距離の移動が難しい障害者の方々にとって、遠く離れた高知よさこい祭りに遠隔で参加できることは、楽しみや生きがいの拡大につながる。
ただ、実際問題として「アガモン」には改良すべき課題もたくさんある。まず、人間のような滑らかな動きを具現化することは技術的に非常に困難なのだという。今は、関節の一つ一つを調整しながら動きが滑らかに見えるように思考錯誤しているが、次の段階では、AI技術を用いて踊り手の動きをロボットが自分で学習しながら、スムーズに踊れるように進化させていきたいという。また、実際のパレードでは、3体のアガモンが生身の人間たちと一緒に踊るので、前後左右の踊り手たちに衝突してしまう危険性がある。今回は安全性を配慮して、アガモンを車に乗せることにした。当日の雨天や、暑さについても心配のタネだ。ラノジット先生らの開発チームは、「おそらく祭り本番まで寝ずの作業が続くだろう」と気を引き締める。世界初の試みであるから、結果は誰にも想像できない。果たしてアガモンは無事によさこいを踊れるのか。世界中からも注目が集まる。
【記事の投稿者】
麻生子八咫(あそう こやた)
プロフィール 1985年生まれ。幼少期より父・麻生八咫の活弁の舞 台を見て育つ。 10歳の時に浅草木馬亭にて活弁士としてプロデ ビュー。2003年には第48回文部科学大臣杯全国青 年弁論大会にて最優秀賞である文部科学大臣杯を受 賞。2015年日本弁論連盟理事に就任。2016年麻生 八咫・子八咫の記念切手発売。2020年3月東京大学 大学院総合文化研究科博士課程を満期退学。 著作には、『映画ライブそれが人生』(高木書房、 2009)麻生八咫・子八咫共著がある。劇中活弁、方言活弁、舞台の演出・脚本、司会等、さまざまな舞台 活動を行う。英語公演にも力を入れており、海外で はアメリカ、カナダ、韓国などでの公演などがある。
月刊浅草副編集長