【芸人・関遊六(せき・ゆうろく)物語〈前編〉】こやたの見たり聞いたり<第8回>月刊浅草ウェブ

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〜関敬六って誰?勘違いから始まる運命的出会い〜

人生というのは、どこにどんな運命的な出会いが転がっているかわからない。
怖そうなおっちゃんばかりが集う新小岩の麻雀店に、一人のプータローの若者が通っていた。勤めていたフランス料理屋を辞め、特に働く気もなく、姉たちの家に転がり込んでダラダラと過ごしていた。彼は、派手でもなく、夢や目標を持つタイプでもないのらくら男だったが、不思議とみんなに可愛がられた。
ある日、麻雀仲間のおっちゃんに「お前は何になりたいんだ?」と聞かれ、「役者になりたいんです」と答えた。どうせ不景気で就職は厳しい。どうせなら好きなことで生きていきたい。自分は映画が好きだから、俳優になりたいな…。そんな安直な発想から出た言葉だった。すると、おっちゃんは「なんだ、役者になりたいのか。だったら、関敬六を紹介してやるよ」と言った。

関敬六というのは、言わずと知れた国民的コメディアンである。渥美清の無二の親友としても有名で、山田洋次監督『男はつらいよ』シリーズに何度も出演している。エノケン劇団を経て、フランス座に所属、そして自身でも劇団を立ち上げ浅草を中心として舞台に立った。数々のテレビ、映画、アニメ、コマーシャルにも起用され、子どもたちに大人気。

関敬六さん

だが、世代が少しずれていたから、残念ながら彼は関敬六を知らなかった。「関敬六って誰です?」と聞くと、「お前、関敬六を知らないのか?『男はつらいよ』にしょっちゅう出ているよ。スキンヘッドで、この麻雀店にもよく来ているから見たことはあるはずだ」と言う。スキンヘッドで、『男はつらいよ』に出演している…?

そのとき、彼はひらめいた。
あぁ、タコ社長の人か!「知ってます、その人!」
そんな勘違いから始まった。

ひとまず、関敬六の舞台を見に行くことにした。麻雀仲間のおっちゃんからチケットをもらい、「絶対に関敬六の弟子になってこいよ!」と背中を押された。訪れたのは、浅草木馬亭。今もある老舗の演芸場だ。観客は、彼を含めて4人だった。初めて体験する浅草喜劇の世界は、どれもすごく面白くて大笑いした。しかし、笑っていたのは彼だけで、他の客は全く笑っていなかった。

いよいよ関敬六の出番になった。出囃子の音楽が鳴って、いよいよ登場か?と思ったがなかなか出てこない。アクシデントかな?と心配しているうちに会場の空気がガラリと変わるのを感じた。関敬六は、客席後方から登場した。本当に面白い芸人は、登場の歩く姿だけで、観客を興奮させるというが、明らかにそれまでの芸人とは違った。それまで全く笑わなかった他の観客たちが声を上げて笑い始めた。「すげー…」と心の底から感動した。電撃を受けるような衝撃を受けた。自分はきっと関敬六のようにはなれないけれど、それでも関敬六の近くにいたいと思った。

すぐに関敬六のもとへ行き、「弟子にしてください」とお願いした。だが、「弟子は取らないんだ」ときっぱり断られた。麻雀仲間のおっちゃんがチケットをたくさんくれたから、翌日も舞台を見に行った。終演後、再び「弟子にしてください」と伝えたが、やっぱりダメだった。諦めきれなかったから、またその翌日も木馬亭を訪れ、「弟子にしてください」と伝えた。

3日目に訪れた時、関敬六は「弟子をとらないのではなく、とれないんだ」と話してくれた。「弟子をとるということは、その弟子の生活全てを面倒見るということだ。だが、今は自分のことで手一杯だから、弟子はとれないんだ。だから諦めてくれ。ごめんな」と言う。

しかし、それでも彼は諦めなかった。「生活は大丈夫です。アルバイトでもなんでもして何とかします。まず、付いて回っていいですか?」と食い下がった。
こうして彼は、半ば無理やり付き人になった。
以後、彼は関敬六から「坊や」と呼ばれるようになる。
名前はまだない。

・・・続きは〈後編〉にて!

いまは「浅草21世紀」の一員として、師匠と同じ舞台に立つ

【information】
現在「坊や」(関遊六)は、かつて関敬六が副座長を務めていたお笑いの劇団「浅草21世紀」の一員として、毎月浅草木馬亭の舞台に立っている。
今月は14日〜21日。チケット:前売り¥2300 お問合せ03-3844-2130 ウェブサイト: asakusa21.com

(月刊浅草・令和4年8月号掲載)

【筆者紹介】
活弁士・麻生子八咫(あそうこやた):父麻生八咫に弟子入りし、10歳の時に浅草木馬亭で活弁士としてデビュー。
活弁は、サイレント映画に語りをつけるライブパフォーマンスです。どうぞよろしくお願いします。

※写真の転載を固く禁じます。

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