つれづれの記<第3回>田中けんじ|月刊浅草ウェブ

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月刊浅草ウェブ

山形生れの芸人︑伴淳三郎︵明治41〜昭和56)がズーズー弁で喩える。森繁久弥は老舗の旦那さん。フランキー堺がレストランの支配人なら、俺は大衆食堂の主人で煮っころがしの味だず……。

芸界入りは関東大震災後の17歳。新劇に入ったが東北訛り丸出しで使いものにならない。無声映画(トーキー)なら肌に合いそうだと役者生活に入った。
大河内伝次郎の「血煙り高田馬場」(伊藤大輔監督)で酔っぱらい役。これがきっかけとなり伊藤監督・大河内に可愛いがられ59本の無声映画に出演、浅草六区富士館で実演。大河内伝次郎伴淳三郎の〈丹下左膳〉は大評判となり、劇場から地下鉄田原町まで行列がつながった。もっとも駈け出しの伴淳ではなく、いかに大河内の人気が凄かったか……。多面的な芸人でアイデアや企画力に定評があり、座長として劇団をまとめたり、東北出身者にして関西喜劇人協会会長に就任するなど人望と政治的手腕があった。夏の祭典「浅草サンバカーニバル」もブラジル好きが高じた彼の発案で当時の内山区長を動かし恒例行事になっている。昭和38年には小児マヒの後遺症で早世した川島雄三監督に衝撃を受け「あゆみの箱」運動に力を注ぎ、慈善団体に発展させている。
昭和52年一連の活動により、紫綬褒章を受章した。
若気の至りか男気か?マスコミを騒がせた「引抜事件」。スパイ映画を観るような暗躍は語り草である。

昭和14年33歳の時、新興キネマの永田雅一(後の大映社長)は、役者の域を超えた義理と任侠道を重んずる生きざまを頼もしく見ていた。
〈この男は使える〉かねての腹案を彼に託することにした。伴を会社に呼び30万円を積んだ。1万円札のない時代今の価値で数百倍の貨幣である。見たこともない札の山に肝を潰した。「伴、新興キネマの命運がかかる秘密指令だ。大阪に新たな演劇部を創設する。これを持って地下に潜れ、お前の手腕で吉本興業のタレントを根こそぎ引っこ抜いてこい。失敗したら伴事休す…生きて戻るな!」
当時の芸能界は会社との契約があっても口約束みたいなもの、そこを「現ナマで釣ってこい!」乱暴な作戦は時に騒動になる。浅草田島町(西浅草二)では広沢虎造が移籍にからみ、夜陰に乗じ日本刀で切りつけられ、長谷川一夫もトラブルに巻きこまれ被害にあっている。永田にとってはここ一番の常套手段。
ターゲットは広沢虎造エンタツアチャコ川田晴久ら当時のトップスター。アチャコは受け取ったが、考えたら「ムチャクチャでござりまする」と返しにきた。義理を重んじ虎造、川田は乗ってこない。一万円で釣られたのがキートン、坊屋らあきれた面々……。

吉本側は怒り心頭、やくざを雇って報復準備。伴もアコギな指令は不本意でも永田親分の約束では後に引けない。命を賭けた大車輪で突っ走る!
京都京極「えびす座公演」初日、〈あきれたぼういず〉〈わかな・一郎〉の大看板が幕を開けた。
伴はプロボクサーをボディーガードに身辺をかため、劇場は警官や私服が警戒する。ファンも騒動を知ってか殴り込みはいつか?妙な期待で超満員。一触即発の状態で公演は続くが緊張の糸もいつかはゆるむ。
やがて水面下で話し合いが持たれ、黒幕の永田が身を退くことで解決に向った。

命びろいの伴、悪役はもうコリゴリだず……、お笑いの世界へ戻って行った。
昭和27年ロック座公演。「バンジュンの芝居は実に面白かった。〈男娼の森〉は絶品で余りの評判にノガミ(上野)のおかまが大挙来館、〝キャアーキャアー〞大騒ぎ、あんた役者をやめてオカマになんなさいよ!」と伴は逃げまわってましたね。伝説の珍演を松倉久幸会長は懐しがる。
そして〝アジャパー!〞の流行語がブレイク。「アジ ャパー天国」・「探偵アジャパー氏」とアチャラカ映画がシリーズに…昭和30年代は「二等兵物語」・「飢餓海峡」の初老刑事の名演とスタンスを変えて行く。〈喜劇役者・悪役主人公・慈善家・シリアスな俳優〉と波乱万丈の人生を変幻自在に演じた。
昭和7年「喜劇爆笑隊」を結成、清川虹子と初舞台を踏んでいる。
……三十年後、酸いも甘いも噛み分けた〝女親分と怪優〞が一緒に住み始めて周りは唖然?4度目の新妻と切った女は幾千マン……恐怖のホラー婚にレポーターも寄りつかない?
ある日の虹子劇団、期待の女優元気がない「あんたなに落ち込んでるの?伴淳貸そうか、うまいよ!」翌日から潑溂とした舞台、ところが亭主の様子がおかしい……「あんた、どうしたのヨタヨタして」、「あの娘見かけによらず強くてなあ、〝アジャパー!〞

(田中けんじ, 2016年)

田中憲治 デザイン事務所「レタスト」http://www.letterst.jp/profile/index.html

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