【怪談の季節がやってきた!】こやたの見たり聞いたり<第7回>月刊浅草ウェブ

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今年も夏がやってきた。みなさんは、「夏」といったら何を思い浮かべるだろうか。お祭り、花火、プール、スイカ、かき氷、浴衣、麦わら帽子、高校野球・・・夏の風物詩はどれも魅力的だ。その中でも、今回は背筋も凍る「怪談」をテーマに取り上げてみる。

実は、私は怖いものが大の苦手だった。芸人の娘として生まれた私は、ハラハラドキドキするのは日常だけで十分で、願わくば回避したいと思いながら生きてきた。「給食費は払えるんだろうか」「遠足に行けるかな…」と、子供ながらに家計の心配をする始末。できることなら穏やかに生活したい。だからかどうかは分からないが、小さい頃から水戸黄門が大好きだった。必ず定時に印籠が取り出され、悪人は罰せられる。そこに例外はない。安心・安全・平和な世界でぬくぬくと過ごしたいし、もちろん怖い思いなんてしたくない。

しかし私という人間は、自分の中に「苦手」という項目があると、なぜか「克服したい」と思うらしい。コロナ禍の影響で時間が一時停止した時、私はまず苦手を克服する時間を設けた。音符が読めない私は、楽しそうなウクレレにチャレンジしたが、それは見事に三日坊主で終わった。 その中で、少しだけ克服できたのがホラー映画だ。とはいえ、一人だと途中で諦めたり早送りをしてしまうから、勝手に「ホラー映画鑑賞日」を設け、師匠(麻生八咫)を誘って一緒にぎゃーぎゃー騒ぎながら観た。隣で自分より大声で叫びながら怖がる人間がいると、案外冷静になれるという説は本当だった。そんなわけで、私は以前よりも怖い話が苦手ではなくなったので、今回は怪談について話を進めてみよう。

そもそも、なぜ怪談は夏の風物詩なのか?聴衆の背筋がゾ〜っとして涼しい気分になれるから?そうだとしたら、アフリカは怪談天国になっているはず…。

日本で怪談が夏の風物詩となったのは、歌舞伎の「怪談物」が夏の娯楽として成立・定着したことに由来している。初代尾上松助という「水中早替り」を得意とした江戸時代後期の歌舞伎役者が、歌舞伎界初の怪談『天竺徳兵衛韓噺』(四世鶴屋南北作)を演じ、「怪談物」というジャンルを開拓した。水中早替りの「夏」という季節性と、「怪談」という二つのキーワードを結びつけたのである。

怪談話は、実際に起こった事件や伝説を基盤としているものが多いという。伝承過程で内容は変化するだろうし、芸能化されるたびに脚色される。浄瑠璃、歌舞伎、落語、講談、小説、映画、ドラマ…と多岐に亘る媒体で脚色される中で、ストーリー細部に違いが生まれる。各ジャンルを比べてみるのも面白いかもしれない。

まずは、日本の三大怪談話を振り返ってみる。おそらく日本で一番有名な怪談は『四谷怪談』だろう。お岩という女が、夫である伊右衛門に惨殺され、幽霊となって復讐をするという物語。『皿屋敷』では、お菊という女が高価な10枚揃いの皿を1枚割ってしまい(皿を意図的に隠されてしまうという物語もある)、その責めを追って死んでしまう。亡霊となったお菊が、井戸の中から夜な夜な「いちま〜い、にま〜い…」と皿を数える描写は有名だ。そして、落語でおなじみの『牡丹灯籠』では、恋に落ちたお露と新三郎が、夜な夜な逢瀬を重ねるが、お露の正体は亡霊だったから、新三郎は次第にやつれていく。「家の周りにお札を貼って決して外へ出てはいけないよ」と言われるが…はてさてどうなることやら。

不思議なことに、この日本三大怪談話に出てくる幽霊たちはすべて女性である。一般に、描かれる幽霊は女性が多いらしい。この理由を少し調べてみたが、当時女性は社会的に弱い立場で抑圧が大きかったからとか、女性は出産死という特異の死に方があったから女性が化けて出るという認識が強まったとか、女性は元来執念深い性質を持つからだとか…さまざまな説があるようだ。どれも定かではないし、明らかにしない方がミステリアスでよいのかもしれない。想像力は、人々の恐怖心をさらに増幅させるものだから。
みなさんも、女性には親切にしておいた方がいいですよ。くわばら、くわばら・・・。

(月刊浅草・令和4年7月号掲載)

【筆者紹介】
活弁士・麻生子八咫(あそうこやた):父麻生八咫に弟子入りし、10歳の時に浅草木馬亭で活弁士としてデビュー。
活弁は、サイレント映画に語りをつけるライブパフォーマンスです。どうぞよろしくお願いします。

※写真の転載を固く禁じます。

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