人は、年齢ではない。
思考が新しい人間は、何歳になっても新しい。
私が大好きな演出家がいる。彼の名は、齋藤忠生(さいとうちゅうせい)。齢78歳、週3回人工透析を受けている男だ。文字通り、命がけのオペラ演出家である。
彼は言う、
「調和はいらない、思いっきり個性を出してくれ、最高の舞台を作ろう!」
強烈で、面白くて、真に心の入った舞台を追い求める齋藤忠生さんの生き様を見ながら、「舞台に命をかける」とはどういうことかを思い知らされる。
忠生さんは、演者に問いかける。
「あなたが一番輝ける歌は何?」
「あなたが一番魅力的に見える衣装はどれ?」
「あなたが舞台上で生きるためにはどう動けばいい?」
そして稽古を見て、声を聴き、臨機応変に演出を変更する。
浅草は強烈な個性が求められる街。本気と本気がぶつかり合うから、さらに高みに迫れる。無難はいらない。それぞれが主役のつもりで挑んでほしい。それをまとめるのが演出家の役割だから。
舞台を作る過程には、いろいろなことが起こる。意見の衝突はしょっちゅうである。一口に「舞台」と言っても、構成、脚本、演出、音楽、照明、音響、美術、と考えることは山積みだ。他にも、時間の問題、金銭的な問題、出演者の体調やスケジュール調整、チケット販売…。やりたいことと現実にやれることは違うし、最近ではコロナ対策にも細心の注意が必要だ。楽しい舞台の裏では、大勢の人間が、様々なハプニングと格闘している。
舞台にかける姿勢に関しては、我が父であり師匠、麻生八咫(あそうやた)も負けず劣らず熱い。昔は、本番ギリギリまでスタッフと喧嘩することも珍しくなかった。リハーサルも全力全開だ。幕が開く直前まで最大限努力したい、最高の舞台を作りたい。そんな藁にもすがるような、舞台への強い想いを間近で見てきた。
彼らを見ていて思うことは、全力を尽くす、必死で夢を見るって最高だ!ってこと。
それは見る側にも大きな刺激を与える。「生きた舞台」を見ることは、人間が「生きている」という喜びを感じられる営みである。
前置きが長くなったが、来る5月29日(日)、「活弁と浅草オペラの浅草パラダイス」と題した公演が浅草公会堂で行われる。活弁士・麻生八咫(やた)と子八咫(こやた)の主催公演である。
全体の演出は私(こやた)が務めるが、浅草オペラの演出は齋藤忠生さんが務める。誰よりも思考が新しく、誰よりも舞台に命をかけていて、周りの人をドキドキワクワクさせる求心力があるからだ。
公演内容は、活弁と浅草オペラの2部構成である。活弁は、サイレント映画に語りをつける日本特有のライブパフォーマンスだ。かつて浅草は、日本一の映画興行街であり、活弁の聖地だった。昼の部「チャップリンの霊泉」「野狐三次」、夜の部「キートンの警官騒動」「月世界旅行」を上演する。
浅草オペラは、大正時代に西洋オペラを大衆化・喜劇化し、日本中に熱狂的大ブームを巻き起こした芸能だ。田谷力三やエノケンなど大スターを多数生み出したが、関東大震災で衰退した。これはそんな浅草オペラを令和版として復活させる公演である。演目は昼夜「カルメン」だが、出演者が異なるので、まるで違った作品に仕上がる。
更に、今回の公演の目玉は「デジベン」である。デジベンは「デジタル×カツベン」のこと。コロナ禍で活弁公演が軒並み中止になった時、台東区蔵前に支社を構える「銀座サクラヤ」の映像エンジニア高野邦俊さんと、未来の活弁を考えるプロジェクトを始めた。それがデジベンである。今回、世界初公開するのは、AIが着色した映画に活弁をつけるデジベンである。AIの成長に伴って、今後も進化するが、本公演はその第一弾である。しかも、そこにプロの阿波踊り集団・寳船(たからぶね)との史上初のコラボレーションを加える。
「活弁と浅草オペラの浅草パラダイス」は、古くて、新しくて、エネルギッシュで、何が起こるか分からない、大興奮なイベントである。ぜひ劇場で「生きた舞台」を目撃して頂きたい。
*「活弁と浅草オペラの浅草パラダイス」5/29(日)昼の部・13時半、夜の部・17時半
前売りチケット:指定席(1階)4000円、自由席(2・3階)3500円
問合せ:info@katsuben.com、048-922-5078 (10時〜18時)
【筆者紹介】
活弁士・麻生子八咫(あそうこやた):父麻生八咫に弟子入りし、10歳の時に浅草木馬亭で活弁士としてデビュー。
活弁は、サイレント映画に語りをつけるライブパフォーマンスです。どうぞよろしくお願いします。
※写真の転載を固く禁じます。