「北野武」“世界のキタノ”を生んだ浅草の土壌と映画界で活躍した芸人たち<第18回>浅草六区芸能伝|月刊浅草ウェブ

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東洋興業会長(浅草フランス座演芸場東洋館) 松倉久幸さんの浅草六区芸能伝<第18回>「北野武(きたのたけし)」

前回は、映画全盛期の浅草と、当時の芸人たちと映画との関係についてお話しましたね。
今の若い世代にとっては、お笑いと映画の世界は、一見無縁のように思えるかも知れません。それも無理からぬこと、近年のバラエティ番組では、良質なコントなど芝居的要素を含む芸を観る機会は、ほとんどなくなってしまったのですから。
 
しかし、コメディアン=喜劇役者。文字通り、優れた芸人とは、優れた役者でもあるのです。
わが小屋出身のコメディアンたちも数多く映画界へ進出し、成功を収めてきました。昭和を代表する名優となった渥美清から、世界的な映画人として評価の高まる北野武まで、その伝統は、脈々と受け継がれています。

今回は、そんな個性溢れる浅草芸人たちの出演作の中から、“ソファ映画鑑賞”に打ってつけのおススメ作品や、それらにまつわるエピソードを紹介してゆきたいと思います。大いに笑い、涙し、心を躍らせて下さいね。
あ、もちろんリアルに浅草に足を運んでいただき、街歩きや劇場巡りを楽しむことも、どうぞお忘れなく…(笑)!

映画俳優として大成した浅草芸人と言ってまず名前が挙がるのは、やはり伴淳三郎でしょう。彼は昭和22年の開場当時から3年ほどロック座の舞台で活躍し、その後映画界へ本格的に進出しました。
一世を風靡したギャグ”アジャパー”誕生のきっかけとなった作品が、『吃七捕物帖・一番手柄』(昭和26年・松竹)。
その後『二等兵物語』シリーズ(昭和30~36年・松竹)や『駅前』シリーズ(昭和33~45年・東宝)により、押しも押されぬ大スターとなりましたが、喜劇にとどまらずシリアスな演技もできる俳優として評価が高まった記念すべき作品が『飢餓海峡』(昭和39年・東映)。
喜劇役者の顔と、渋い演技が光る性格俳優としての顔。全く異なる伴淳の魅力を比較しながら鑑賞してみるのも、面白いのではないでしょうか。

そしてフランス座出身のエースと言えばもちろん、渥美清。下積み時代は手の付けられない荒くれ者で、正直なところ当時は“よくこんな男が採用されたな…“と思ったりもしたのですが(笑)、大病を経て人格にも演技にも磨きがかかり、国民的俳優と呼ばれるまでになりました。
生涯のはまり役「男はつらいよ」シリーズ(昭和44年~・松竹)の寅さんこと車寅次郎の印象があまりにも強烈で、また自身も、皆が抱く寅さんのイメージを崩すことをよしとしなかったため、他の作品について語られる機会が少ないのは残念なことですが、その演技力が高く評価された『拝啓天皇陛下様』(昭和38年・松竹)や『沓掛時次郎 遊侠一匹』(昭和41年・東映)など、隠れた名作多数。『友情』(昭和49年・松竹)も、軽妙さと哀愁が同居する彼らしい個性が、よく出ている作品です。
それにしても、「男はつらいよ」シリーズは27年間に渡り、49作を数える歴史的な作品となりましたが、実はこの年末に、なんと22年ぶりの新作が公開される予定だそうです。時を経てなお「寅さんファミリー」がこれほどまでに愛され続けていることを、きっと天国の渥美も、心から喜んでいるでしょうね。

バイプレイヤーとして名を馳せた長門勇も、フランス座出身コメディアンの一人。おっとりしていながらも風格があり、唯一無二の存在感を持つ彼は、芸風そのままの大らかな人柄で誰からも好かれ、遅咲きではありましたが、幅広く、末永く活躍する名優となりました。
長門と言えば、出世作となった時代劇『三匹の侍』やコメディ番組『スチャラカ社員』、ドラマ『横溝正史シリーズ』など、大ヒットTVシリーズの印象が強いかもしれませんが、もちろん、映画作品にも数々の名作を残しています。
山本周五郎の短編小説をベースに製作された初主演作『道場破り』『続・道場破り』(昭和39年・松竹)は必見。テレビの好評を受けて映画化された『三匹の侍』(昭和39年・松竹)も、長門の個性が際立っており、テレビとはまた違った味わいが。『男はつらいよ』シリーズ32作目の『口笛を吹く寅次郎』(昭和58年・松竹)では、古巣の同僚である渥美、関敬六との共演を果たしています。
古き良き昭和の空気感が伝わってくるテレビシリーズ作品も、機会があればぜひご覧下さい。もっとも、多作だけに、はまり込むと睡眠不足必至ですが…(笑)。

そして、映画と言えば、やはりこの人。
映画の話題の際には、ビートたけしではなく北野武と呼ぶのが、相応しいでしょうね。映画監督としての地位を確立した現在でも、相変らずテレビを付ければ顔を見ない日はないほどの売れっ子ですから、日本ではまだまだコメディアン・ビートたけしのイメージが強いけれど、海外では今や、立派な文化人。作品への評価は非常に高く、数々の賞を受賞しています。

多くの監督作品に自身も俳優として出演していますが、フランス座にいた頃から纏っていた、どこか寂し気で哀愁漂う雰囲気は、スクリーンの中で独特の存在感を放ち、役者としても非常に魅力的だと思います。
『HANABI』(平成9年・日本ヘラルド)は第54回ヴェネツィア国際映画祭 金獅子賞に輝いた、記念すべき一作。彼の世界観が、よく表れている作品です。劇中に登場する素敵な絵画も、自身の筆によるもの。東洋館の階段付近の壁にも大きく引き伸ばして飾ってありますので、来館の際には、ぜひご一覧を。『ソナチネ』(平成5年・松竹)や『アウトレイジ』(平成22~29年・ワーナーブラザース)シリーズ等のヤクザものも圧巻ですが、ほのぼのとした作風の『菊次郎の夏』(平成11 年・オフィス北野)や、青春映画『キッズ・リターン』(平成8年・オフィス北野)も、お勧めの作品です。
監督としても、役者としても円熟の時を迎え、これから益々素晴らしい作品を、世に送り出してくれることでしょう。数多くの著作も手掛けている彼のことですから、自著を原作にした映画も、ぜひ観てみたいと思います。
そしていつか、浅草を舞台に、フランス座での修行時代のことを題材にした作品も撮ってくれたら、本当に嬉しい限りですね(笑)。

実は東洋館には、小規模ながら映画の設備があります。
今後、何らかの形で映画に関するイベントや上映会等を、開催してみたいと考えています。例えば、江戸まちたいとう芸楽祭の催しのひとつとして企画してみるのも、面白いかも知れませんね。
平成24年を最後に、浅草の映画館は全て姿を消してしまいましたが、映画の街・浅草の復活に願いを込めて、出来ることから少しづつ、実行してゆければと思います。

(口述筆記:高橋まい子)

※掲載写真の無断使用を固く禁じます。

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東洋館〜浅草フランス座劇場〜

歴史あるフランス座(ふらんすざ)の名前でも有名な東洋館。正式名称は「浅草フランス座演芸場東洋館」です。
現在はいろもの(漫才、漫談など)を中心とした演芸場。建物を同じくする姉妹館・浅草演芸ホール(落語中心の寄席)とともに、歴史ある浅草お笑い文化の一角を担う存在と自負しています。「浅草フランス座」以来の伝統を受け継ぎつつ、新しい「お笑いの発信基地」でもある当劇場へのご来場を心よりお待ち申し上げております。
浅草観光の際には是非ご利用ください。


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