東洋興業会長(浅草フランス座演芸場東洋館)松倉久幸さんの浅草六区芸能伝<第15回>「ビートたけし杯漫才日本一」
今回は、いつもと少し趣向を変え、2018年より好評開催中の台東区の文化・芸術イベント「江戸まちたいとう芸楽祭」の一環として、去る1月28日に開催された『ビートたけし杯 漫才日本一』の模様をお伝えしたいと思います。
このコンテストの趣旨は、日本を代表する芸人たちの修行の場、青春の舞台となった旧 フランス座・現 東洋館で、将来有望な若手漫才師の中から、理屈抜きにお客さんの笑いをとれる真の実力者を発掘し、世に送り出そうというもの。自身もフランス座出身芸人であり、芸楽祭の名誉顧問を務めるビートたけしの快諾のもと、実現の運びとなりました。
さぁ、舞台の幕が上がります。第2のたけしを目指す若き漫才師たちは、一体どんなバトルを繰り広げるのでしょう?大衆芸能のメッカ・浅草六区から、再びきら星のごとく輝く未来の大スターは、誕生するのでしょうか…!?
出場者は、事前に映像審査を通過したキャリア10年以下の若手漫才コンビ。審査員に高田文夫、ナイツ、見届け人に宮藤官九郎、服部台東区長と豪華な顔ぶれを迎え、数多くの報道陣がカメラを構える心地よい緊張感の中、大会はスタートしました。
今回の特徴は、お客さん一人ひとりも票を持ち、審査に参加していること。笑いとは本来、シンプルなもの。あれこれ理屈をこねるより、その日一番会場を沸かせたヤツがチャンピオン、それでいいじゃないか!”との思いからです。
舞台上でのくじ引きにより、出場全10組の出番は、以下のように決定しました。
①ブラッドピーク【河田祥子(25)・土屋慧(26)】
②がじゅまる 【スーミーマン(31) ・小林すっとこどっこい(28)】
③ヤマメ【コウタファイヤー・チカト(27)】
④ザ・パーフェクト【ハードパンチャー妹尾(31)・ピン ボケたろう(29)】
⑤いい塩梅【松村祥維(30)・久保田星希(30)】
⑥オッパショ石【広田ハヤト(25)・蒲谷ユウキ(25)】
⑦キープランニング【山本和弥(29)・堀内隆(32)】
⑧モンローズ【宮本勇気(27)・まえのりゅうた(26)】
⑨ゆかりてるみ【ジェット(34)・卓也(32)】
⑩マッハスピード豪速球【ガン太(34)・坂巻裕哉(36)】
さすがに顔写真まで載せるスペースはありませんが(笑)、せめて名前だけでも覚えて頂ければ幸いです。なんたって皆、将来の”お茶の間の顔”候補ですからね!
各自の持ち時間は、4約分ほど。厳しい審査を潜り抜けてきただけあり、どのコンビもなかなかに魅力的です。
「がじゅまる」は活舌が良く、基礎がしっかりしている印象。「ヤマメ」は絶叫型の芸風で、元気いっぱい会場を盛り上げてくれました。「いい塩梅」は、前日の芸能ニュースを早速取り入れた、鮮度の高いネタが良かった。「キープランニング」は、素直に笑える親しみやすさが好感度大。「モンローズ」は、二人
の個性とギャップが際立っており、華がある。「マッハスピード豪速球」は、目の付けどころが個性的で、ネタのセンスが光っていました。
全出場者の発表が終わったところで約20分の休憩が入り、その間に審査が行われました。さて、記念すべき第一回・ビートたけし杯の栄冠は、どのコンビの頭上に輝いたのでしょう!?
各審査員票、見届け人票に観客票を合わせた厳正な審査の結果、準グランプリに当たる高田文夫賞にはモンローズが、そしてグランプリにはマッハスピード豪速球が、それぞれ満場一致で決定しました。
感動的だったは、たけしも言っていましたが、審査側の評価と客席の湧き方が、ほぼ正比例していたこと。やはり笑いというのは、どんな人の心にも素直に届く、ある種の“共通言語”なのかも知れませんね。
以下は、たけしの総評を要約したものです。
〈俺たちが若手の頃と比べて、皆本当に上手いと思う。正直、1位と2位の実力差は、ほとんどなかった。松倉会長の「モンローズ、2位でいいんじゃない?」って鶴の一声で、そうなっただけで(冗談!笑)。
いい漫才師が、関東にも出てきたと思う。浅草の若手には、是非、江戸弁の芸を残して欲しい。“関東の漫才ブーム”が到来すればいいな、と。
服部区長にも頑張ってもらって、これからも、この芸楽祭でのビートたけし杯が、長く続いて定着すれば嬉しい。〉
“東京の漫才”が育って欲しい、“関東の漫才ブーム”を起こしたい、というのは、高田文夫、ナイツ、宮藤官九郎にも共通した意見でした。私も全く同感ですね。
もう一つ、たけしの話で印象に残ったのは、テレビの事情と若手漫才師との関係です。現在、お笑い番組で漫才を披露できる時間はわずか1~2分と非常に短いことから、芸人はどうしても早口にならざるを得ず、結果、どんどん漫才が崩れてきてしまっている。テンポの良い大阪弁に比べ、これは江戸弁にとって、殊に好ましくない状況です。 関東漫才の良さは、言葉が穏やかなぶんじっくり聞き入ることが出来、じわじわと笑いがこみ上げてくる所にあると思うのです。テレビに時間的限界がある以上、長い時間をかけて聞かせる漫才を披露できる場を提供し、芸の崩れを阻止するのは、やはり我々実演劇場の務めなのだと、あらためて実感しました。
それにしても、今回何よりも嬉しかったのは、舞台も客席も一体となり、手放しに楽しんで頂けたことです。やはり古巣に帰ると昔の感覚が蘇るのか、たけしもステージ上でいたずらっ子のように生き生きとした表情を見せ、心底楽しんでいるように思えました。たけしにいじられて爆笑していた服部区長の笑顔も、とても素敵でしたね(笑)。
「台東区で育まれてきた伝統の文化・芸能を、肩ひじ張らず気軽に楽しんで欲しい」というのが芸楽祭の大きなコンセプトのひとつですから、そういう意味でも、「ビートたけし杯 漫才日本一」は、ひとまず大成功といって良いのではないでしょうか!
多くの方々の協力を得て実現した本大会を大切に育て、末永く存続し、若手芸人の輩出、そして浅草活性化の一助となれたなら、こんなに嬉しいことはありません。
今回の経験を通して、私の中にひとつ、ふと沸き上がってきた想いがあります。それは、浅草芸人の真骨頂ともいえる、コントの復活。そもそも、フランス座の芝居は、幕間のコントから始まったのですから。
漫才大会と並んで、いつか芸楽祭の中でコント大会も開催出来たら、面白いことになりそうです。今はまだ、ひらめいたばかりの夢の段階ですが…いいじゃありませんか、夢と笑いは、大きいに越したことはありませんものね!
松倉久幸(浅草演芸ホール)
(口述筆記:高橋まい子)
※掲載写真の無断使用を固く禁じます。