浅草の初夢
「花の雲 鐘は上野か浅草か」と謳われた浅草寺弁天山の鐘。
街の旦那衆・歌舞伎役者衆・噺家衆他伝統文化関係者等の面々で構成する「百八会」に依って年明けの音が浅草に響くと、仲見世から本堂の長い列が動き出し、浅草のお正月が始まります。
仲見世の軒先には紅白の繭玉が、その上には干支を描いた絵馬など様々な正月に因んだ飾りが、初詣の善男善女にタイムスリップしたかの錯覚を与えます。
浅草寺では「新年特別祈祷」、東側の浅草神社では「歳旦祭」が執り行われ、多くの方々が、お寺と神社の初詣をされて行きます。
翌2日からは「新春浅草歌舞伎」が賑々しく幕を開け、着物姿の人々で賑わう。
「ザ・日本の正月」浅草の正月です。
江戸時代の正月、人々は一晩中起きて元日は正体無く寝てしまうので、2日の晩に見る夢を「初夢」と云ったそうで、縁起の良い夢(一富士・二鷹・三なすび)これに(四扇・五煙草・六座頭)と続くのだそうです。
「お宝」と言う七福神に「回文」(上から読んでも下から読んでも同じ歌)「永き夜の遠の眠りの皆目覚め波乗り船の音の良きかな(なかきよのとおのねふりのみなめさめなみのりふねのおとのよきかな)」と書かれた物(これを枕の下に置いて寝ると良い初夢が見れる)を売り歩いていたそうです。
私とは物心付いた頃からの友人故荒井修氏が復活し、今も元旦にお越しのお客様に槐の会の加盟店などで差し上げています。
12日~18日に行われる「温座秘法陀羅尼会」(7日間交代で休まず読経するので、座が冷えず温のままと言う法要)が終わり、新春歌舞伎が千穐楽を迎えるともう2月。節分という言葉の意味を感じる時です。
昨年から徐々に、そして今年はほとんどいつもの浅草の正月が取り戻せそうで、賑々しくも穏やかな年の初めを多くのお客様方と味わい、皆様に良い初夢を見て頂きたいと願います。
【今月の著者】
冨士滋美(ふじしげみ)
一般社団法人浅草観光連盟 会長
浅草神社 総代
台東区剣道連盟 会長 剣道錬士
プロフィール
仲見世「評判堂」次男として1948年8月誕生(疎開先市川)
3歳より浅草 浅草寺幼稚園
昭和46年慶應義塾大学卒業
昭和47年より稼業を継ぐ