年の暮れ恒例の浅草演芸ホ ールの「年忘れ漫才大行進」も大入り満員であった。午前10時半から午後7時半までの長丁場である。夜に入ってプログラムの終り頃には客席もまばらになっている、と聞いていたが、どうしてどうして。 2階席も含めてしっかりお客さんは残っていた。内海桂子師匠のトリのあとに、出演者と客席が三本締めを行い、新しい年もこの盛り上がりが続くであろうことを予感させた。
12月の木馬亭では、流行期となるかぜとインフルエンザの話をしたが、その前に「ヒートショック」について触れた。
日本人の寿命が長いのは風呂好きだからといって「風呂長寿」とオチをつけたが、落ち着いていられない現状がある。なんと一年間に1万7千人が風呂場で亡くなっている。そのうちの8割1万4千人が65歳以上なのである。交通事故で亡くなる人が年間4千人余と減っているのにくらべると4倍強である。原因は脱衣所の寒さと風呂の湯の熱さによる温度差︒気を失ったり不整脈が出て、死にいたるのをヒートショックという。寒いと体の表面の温度が下がり、交感神経が刺激されて血管がせばまり、血圧が急上昇する。次に風呂に入ると血流がよくなり、血圧は下がる。この急激な変化で失神や不整脈が起こる。したがって脱衣所を暖かくして、温度差をなるべく少なくすることが肝要となる。
ヒートショックについては三つの学会の見解が異なっている。日本救急医学会は、高温環境暴露にる「熱中症」といい、日本温泉物理気候学会は、高体温というよりも出浴時の起立動作による「血圧低下」といい、日本法医学会は溺死が6割以上もいるから「溺死」といっている。3学会の総括としては、脳血管障害、急性冠症候群、熱中症、血圧低下、アルコールの過度の飲酒など複数の原因が関与している、と結論づけている。
12月といえば「忠臣蔵」。そこで思いついたことがある。東京の真ん中はどこか。宮城前広場の楠木正成公の銅像がある所である。「鳴呼忠臣（中心）」と書いてある。
インフルエンザも風邪もウイルスが原因の感染症だが、症状が違う。風邪は鼻水、咽喉が痛い、せき・たんが出るなどの呼吸器の病気である。インフルエンザは高熱が出る、体がだるい、食欲がない、関節が痛いなど全身にさまざまな症状が出て、それが強くなる病気である。Ａ型、Ｂ型、Ｃ型の3種類があるが、Ｃ型は幼少期のみの発症となる。成人はＡ型、Ｂ型だが、やっかいなのはＡ型で、抗原変異といってウイルスが少しずつ型を変える。10〜30年の間には大きく変って新型インフルエンザとなることがある。
流行期は秋から冬、つまり気温が下がり湿度も下がるとウイルスの生存条件が満たされるので11月後半から4月頃までとなる。高熱となり、全身倦怠感、脱力感、関節痛の症状が出たら受診すること。持病のある人はそれが重症化する可能性が高くなる。治療法は2種類。解熱、鎮痛、消炎作用、せき止め、たん切りで症状をやわらげる対症療法とウイルスをやっつける原因療法である。発症後時間以内に服用すれば、ウイルスを容易に抑えこむすぐれものの薬が4 種類登場している。医師の診断を受けて、病状に適した薬を処方してもらえばいい。
日頃の心がけとしては、規則正しい生活で体力、免疫力を保持する、マスク、うがい、手洗いを励行する、家族に病人が出たら、部屋を別にして感染しないようにする、ワクチンを接種する等が大事である。ワクチンは12歳までは2 回、成人は1回の接種。高齢者は免疫力が弱くなっているので、なるべく接種しておいたほうが安心である。
朗報がある。プラズマ乳酸菌がインフルエンザの予防に有効であるという実験結果が報告された。いくつかの小学校で、プラズマ乳酸菌を含有しているヨーグルトを、児童に週3回食べさせた学校と、そうでない学校を比較した。食べた学校はインフルエンザの発症がなかったが、そうでない学校では流行したというのである。
ことしは閏歳（うるうどし）。オリンピックが開かれ、アメリカの大統領選がある。そこで米国の小咄をひとつ。
クリントン大統領とヒラリー夫人がドライブに出かけ、ガソリンスタンドに寄った。そこの主人は夫人の同級生だった。車を走らせてから大統領が「彼と結婚してたらガソリンスタンドのカミさんだぞ」。夫人は「彼と結婚してたら彼が大統領になってたわ」。
（松井天遊, 2016年）
