猿若三座〈第4回〉絹川正巳|月刊浅草ウェブ

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主な配役は、水戸黄門・稲波侯(團十郎)、藤井紋太夫石見守(菊五郎)、夏目主膳・将軍綱吉(宗十郎)、織田筑後守・魚売久五郎(左團次)と、4人の柄をみてそれぞれが2役、ほかに按摩玄硯・藤井丈左衛(仲蔵)、玄磧娘小富(半四郎)など。

そのなかで船頭河童の吉蔵だけは誰ともきめないで本読みをすませた。黙阿弥は左團次にやらせたかったが、役がいいので他優の思惑を考えわざとに未定にしておいた。

團十郎も左團次もこの役に気があって働きかけたようだが結局は勘彌がこれは音羽屋に限る役だと云ったので菊五郎にきまった。

その折には迷惑そうな顔で吉蔵の役を受けとった菊五郎が何とも嬉しかったとみえ、勘彌の人力車を追っかけてきて、しみじみと礼を云ったという。

藤井紋太夫を演じる五世菊五郎

ー江戸三筋町の魚屋久五郎は、大老織田の屋敷外で飼い犬に商売ものの大事な鯛を喰われ腹立まぎれに出刃包丁で殴ったら死んでしまった。この犬は公方様より拝領のもので罪に問われる。

父親の玄磧は水戸黄門が小石川伝通院仏参の帰途に直訴する。黄門は願いを取り上げ近くにいた病犬を斬らせ、光圀が犬を殺した事を老中に届け出て畜類憐愍の悪法を改めさせ久五郎は助かる。

一方、東両国広小路で河童の吉蔵は織田家の家臣黒崎伴右衛門を強請るが持ち合わせのない伴右衛門は切羽詰まってその形代に金かな具の一片を渡す。吉蔵は帰路酔ったあまりに若年寄稲波石見守の供先で乱暴して捕えられ預かった「五の桐の金かな具」の一片から悪事露顕に及ぶ。

稲波家にて夏目主膳の諭すような、教えるような、物柔らかな尋問に吉蔵が「今までの罪ほろぼし、天下のために」と白状したのは、太閤様が金に飽かして作った豪華な御用船安宅丸取り壊しの企み。織田筑後守が私欲のために河童の吉蔵をつかって徳川家に祟りがあるとの噂を立てさせ、不吉だからと安宅丸を解体、その金銀すべてを着服した事件の真相!!

これら悪事の一味に黄門の寵臣藤井紋太夫がいた。その上に紋太夫が桜風呂の湯女小富にうつつをぬかしている。

〟始めは親孝行したさに諸芸に励みしが、却ってその身の害となり、習い覚えた乱舞にて思はぬ金を得し所から、世のたとえにもいう如く喉元過ぐれば熱さを忘れ、昔の貧者は何処へやら、日増しに募る身の奢り、金が欲しさに悪事に泥(なず)み、今更千悔(せんかい)いたすとも、云って返らぬことばかりー〟

と伯父の藤井丈左衛門の意見もあり先非を悔ゆる紋太夫。全てを知った黄門は還暦祝いの能の催しの楽屋鏡の間で、能「皇帝」の鍾馗大臣の扮装で愛臣を手討にする。

それも黄門が、乱舞・書などの師と頼んだ紋太夫の父・紋左衛門に酬ゆる芳志じゃぞ、と、能面を打割ったことに准えての君主の情。

團十郎の黄門は、さながらその人を見るが如しと云はれた。

「科(しぐさ)のない意味合いばかりで持たせるという芸風はこの優でなければみられないもので不思議と申すほかありません・・・。」 菊五郎の河童の吉蔵は、前の行きがかり上特に気が入っていたとみえ、安宅丸義に実を吐かず遂に舌嚙み切って落ち入るまで、今までにない新しい芝居をみせて好評。2役の藤井紋太夫は、能の囃子を合方に、仕舞に事よせての立廻り、後に蔭腹を切って、鏡の間で黄門に見現わされ手討になるまでの仕打ち、團菊両優の伎は、真に至芸というべきものと評判になり、この狂言は初日から大当りに当って、新富座本年中の欠損を一度に取りかえしたという。

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