「沢 竜二(さわ りゅうじ)」の波乱万丈俳優記<第4回>月刊浅草ウェブ

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<其ノ四~レコード会社の乱~>

前回の騒動が役者としての波乱なら、今回は、歌い手としての波乱。この二つの大波を乗り越えたところから、私の芸能人生は本格的にスタートしたと言えるだろう。

歌手としての私は、上京当初から船村徹先生に師事し、日本コロムビアからのデビューを目指して日夜レッスンに励んでいた。
日本コロムビアといえば、言わずと知れた大手レコード会社。当時の所属歌手は村田英雄北島三郎美空ひばり島倉千代子…と、錚々たる顔ぶれだ。私もここで頑張れば華々しくデビューし、スターになれると信じていた。
ところが、いくら待ってもデビューの話は聴こえてこない。生活は日一日と厳しさを増し、追い詰められてゆく。
いよいよもうダメなのかと思った矢先、ふと小さな追い風が吹いた。女沢正として名を馳せた母への想いを込めて
作った歌「母なればこそ」が人気番組〈小川宏ショー〉で紹介され、注目を浴びたのだ。
放送を観ていたクラウンレコードのディレクター(後に社長~会長)斎藤昇さんから連絡があったのは、それからすぐのことだった。斎藤さんはもともとコロムビアにいいた人で、その手腕には定評がある。
「君は船村の門下生だというが、あの「母なればこそ」という歌は、なかなか良いじゃないか。どうだい、うちから出してみないか?」
「ありがたい話ですが、それはちょっと…。」
「だけど君、コロンビアからは出られないよ。来年も新人リストの中に、沢竜二の名前はない。」 
「えっ…⁈」

努力も辛抱も人一倍してきたつもりだが、もはや限界が近づいていた。第一このままじゃ、明日の暮らしさえままならないではないか。私は上層部に、思いの丈をぶつけた。
「僕はコロムビアの専属歌手になって、スターとして売り出して貰えると思ったからこそ一座を解散し、有り金はたいて背水の陣で東京へ来たんです。でも、いつまでたってもデビューはおろか、専属にさえして貰えない。これでは、九州のみんなに嘘をついたことになってしまう。生活も出来ない。一体この先僕は、どうしたらいいんですか!」
「…本当に申し訳なかった。お前には折を見てきちんと説明して、誤らなきゃと思っていたんだ。」
このとき初めて、事の真相を知らされたのだ。
「数年前、コロムビアの二枚看板である村田英雄北島三郎が同時にクラウンへ移るという噂が出て、その穴を埋めるべく、有望な新人を探していた。ちょうどそんな時に、お前と出逢ったんだ。勝算ありと思ったよ。実力は申し分ないし、今まで二人の大物に掛けていた宣伝費を丸々使えれば、沢竜二を期待の新人として大々的に売り出せると思ったんだ。ところが、結果的に移籍したのは、北島一人だけだった。そこに誤算が生じてしまったんだ。」 
…何ということだろう。まだ若く、レコード会社の裏事情など全く知らなかった私は、歌の実力さえ磨けばデビュー出来ると思い込んでいた。だからこそ、一生懸命に練習し、どんな我慢もして来たんじゃないか…。
張りつめていた心の糸は、ふつりと切れてしまった。

私は斎藤さんの誘いに従い、クラウンへ行くことに決めた。大切な楽曲「母なればこそ」を、引っ提げて。コロムビアからはずいぶん引き留められ、どうしてもというなら一曲だけあちらで出して、また戻って来いとさえ言われた。 けれど私が子供の頃から大好きだった鶴田浩二さんも、ヤクザ映画でそんな仁義違反はしない‼

クラウンへ行ってからも、順風満帆だったわけではない。なんとか食べてゆけるようにはなったものの、むしろ苦労が多かった。求められる歌手像と自分らしさとのギャップに悩み、正直、来るんじゃなかった…なんて思いがちらついたことも(笑)。
もちろん良いことも、沢山あった。一流の作詞家、作曲家、演奏家と出逢い、お互いにインスパイアしながら多くの曲を歌わせてもらったことは、何にも優る財産だ。

人生は常に難しい選択の連続だが、道を極めたいと願う以上、何を選んでも痛みを伴うのは、同じことだろう。
自身で選んだ困難を乗り越え、成長することに価値がある。その積み重ねが、今日の自分を作っているのだから。

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