「浅草界隈の銭湯(1)」 こやたの見たり聞いたり<第26回>月刊浅草ウェブ

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月刊浅草ウェブ_麻生子八咫

 浅草の魅力はたくさんあるが、人情味溢れる人々が何よりの魅力だ。下町の人情に触れたければ、銭湯はうってつけ。銭湯は、単に体を清潔にする場所ではない。疲れがとれ、心が癒され、自然とコミュニケーションが生まれる。

今回いくつかの銭湯を訪れたが、そこで出会ったご婦人が言った。「一人暮らしだとどんどん喋らなくなるけれど、銭湯へ行けば誰かと会える」。銭湯はコミュニケーションの場なのだという。昭和59年の時点では、浅草地域に42軒あった銭湯だが、現在は台東区全体で21軒(2軒休業中)になった。色々なことが起こる昨今だからこそ、温かいお湯と、温かい人情に触れて、ホッとするひとときを過ごしてほしい。

■浅草温泉 堤柳泉(ていりゅうせん)

最初に訪れたのは、浅草温泉「堤柳泉」だ。旧吉原遊郭の名所「見返り柳」の近くにある。

暖簾をくぐったら、靴を脱いで、2階へ上がる。店主さんのフルマラソン記録や写真が掲示され、ランナーたちを応援している銭湯であることがわかる。脱衣所は広めで、ロッカーも大きくて使いやすい。

浴場に入ると、ご年配の方々が、体をゴシゴシと洗い合っていた。ご家族かと思ったが、そうではないらしい。人々が代わる代わる手馴れた手つきで洗い合う。下町らしい助け合いの姿を垣間見た。中には、体を洗われたいけど、流されたくないというおばあちゃんもいるらしく、その辺の空気を読むのだと言う。

ドライヤーの使い方が分からなくて常連の方に聞いたら、「20円を入れるのよ」と教えてくれた。湯上がりの汗が引くまで、江戸っ子気質のおばちゃんたちと和気藹々とお喋りをしながら楽しいひとときを過ごすことができた。

【店舗情報】

住所:台東区千束4-5-4 

アクセス:日比谷線「三ノ輪」駅から徒歩13分。日比谷線「三ノ輪」駅からバス「吉原大門」下車、徒歩1分。

営業時間:13時〜22時(日曜祝日は12時から営業)

定休日:月曜日



■浅草天然温泉 日の出湯

一歩中へ入ると、コーヒーのいい香りがして、湯上がりの人々がコーヒーや焼き芋を食べていた。

帰りは私も食べようと決めて脱衣所へ進む。シンプルだが、とても綺麗で居心地がいい。いざ浴場へ入ると、古代檜(樹齢1000年以上の貴重な檜)の浴槽のいい香りがする。まるで森林浴にでも来たかのようだ。私がお風呂から上がったタイミングで、一人のご婦人がクラシック音楽を気持ちよさそうに歌う声が聞こえてきた。脱衣所にはご年配の方々がいて、歌が終わると皆で拍手を送った。そんなささやかな交流が、優しく心に響く。

帰り際、受付でミルクコーヒー(アイス)と金蜜芋の焼き芋を注文した。作りたてのミルクコーヒーは、レトロな牛乳瓶に入れてくれる。ミルクコーヒーは甘くないので、焼き芋の甘さがちょうどいい。焼き芋は芋が無くなり次第終了。

【店舗情報】

住所:台東区元浅草2-10-5

アクセス:銀座線「稲荷町」駅から徒歩2分

営業時間:14時〜23時(最終受付22時40分)

定休日:水曜日



■寿湯

宮造りの伝統的な銭湯らしい外観に、人々は思わず立ち止まる。

いつも寿湯の前にはたくさんの自転車が並び、その人気の高さが伺える。靴を脱いで中にはいると、券売機でチケットを購入する。浴場へ入ると、目の前に富士山とパンダの絵が広がっていた。天井は高く、男風呂との境の壁が低めなので、全体的に広く感じる。昭和の銭湯は、この低い壁越しに会話したり、石鹸を渡し合ったりしたのだろうか。薬湯は他よりも熱めに設定されていて、常連らしき方が「熱いでしょう?江戸っ子は熱いお風呂に入るのよ」と教えてくれた。この日の露天風呂は、大きなザボンが4つ浮いており、柑橘系のいい香りが心と体をほぐしてくれた。外国人の方々も日本の銭湯文化を楽しんでいて、脱衣所で、日本語ができない方が少しのぼせてしまった様子だったが、周りの人がすぐに気がついて声をかける。困ったときはお互い様。今も昔も、銭湯は人の優しさに触れ合える憩いの場であった。

【店舗情報】

住所:台東区東上野5-4-17

アクセス:銀座線「稲荷町」駅から徒歩2分

営業時間:11時〜25時30分(完全閉店)

定休日:第3木曜日

台東区内の銭湯の入浴料金は均一で、大人(中学生以上)520円、小学生200円、小学生以下100円である。サウナ等を利用する場合は、追加料金が必要になる。

今回は誌面の都合上、3軒に留めたが、浅草界隈にはいい銭湯がたくさんあるので、またの機会にご紹介したい。


【記事の投稿者】
麻生子八咫(あそう こやた)

プロフィール 1985年生まれ。幼少期より父・麻生八咫の活弁の舞 台を見て育つ。 10歳の時に浅草木馬亭にて活弁士としてプロデ ビュー。2003年には第48回文部科学大臣杯全国青 年弁論大会にて最優秀賞である文部科学大臣杯を受 賞。2015年日本弁論連盟理事に就任。2016年麻生 八咫・子八咫の記念切手発売。2020年3月東京大学 大学院総合文化研究科博士課程を満期退学。 著作には、『映画ライブそれが人生』(高木書房、 2009)麻生八咫・子八咫共著がある。劇中活弁、方言活弁、舞台の演出・脚本、司会等、さまざまな舞台 活動を行う。英語公演にも力を入れており、海外で はアメリカ、カナダ、韓国などでの公演などがある。
月刊浅草副編集長

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