【25年ぶりのおばちゃんとの再会】こやたの見たり聞いたり<第12回>月刊浅草ウェブ

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あっという間に1年が経ち、今年1月にスタートしたこの連載もいよいよ12回目となりました。今回は1年の締めくくりとして私自身について書いてみようと思います。

私、麻生子八咫は、活弁士である麻生八咫の一人娘として生まれ、10歳の時に浅草木馬亭で活弁士としてデビューしました。活弁というのは、無声映画を上映するスクリーンの脇で、映画に語りをつける日本独自の芸能です。1本の映画でも弁士の話術によって全く違う映画に見えます。浅草はさまざまな芸能者が芸を競い合う芸能の街であり、明治・大正時代の浅草は数多くの映画館が立ち並ぶ日本一の映画興行街でしたから、浅草は活弁の聖地となりました。そんな浅草で私が活弁士デビューできたことは、私の人生に訪れた最高の幸運です。

10歳。浅草木馬亭での初舞台。師匠(父)・麻生八咫と。

そして、今年はデビューから27年目に突入しました。苦しいことも多い昨今ですが、多くの浅草の皆さんにご尽力をいただいて、浅草での2つの自主公演(浅草公会堂「浅草パラダイス」と、浅草東洋館「浅草活弁祭り」)を無事に行うことができました。浅草活弁祭りでは、スウェーデンから2人のゲスト(ヴァイオリニストとサウンドアーティスト)を呼び、一緒に活弁を上演しました。共に来る予定だったイギリスのオペラ歌手は来日が叶いませんでしたが、映像での出演という形で参加してもらいました。コロナ禍であっても世界と繋がれたことはとても大きな成果でした。まだまだ未熟ですが、今年は全ての舞台で、今の精一杯の私を出し尽くしてきたなと思える1年でした。

令和4年10月29日、浅草東洋館にて開催された渾身の舞台「浅草活弁祭り」の一場面。

今年10月1日には埼玉県鴻巣市の「こうのす観光大使」に任命されたことも嬉しいことでした。私は、2歳から19歳まで鴻巣に住んでいたのですが、幼少期の私はとても大人しく口数の少ない子どもでした。当時母は中学の教員で、父は芸人なので2人とも帰宅が遅く、1人で留守番をすることが多かったのですが、5歳からは近所のおばちゃんの家で過ごすこともありました。優しくて面倒見のいいおばちゃんで、いつもぬか漬けとお茶を出してくれて、母が迎えにくるまでいろいろな話をしました。玄関では靴を揃えること、敷居は踏まない、といった一般的なマナーを教えてくれたのもおばちゃんでした。

活弁士としてデビューしてからは日常が大きく変化し、さらに中学で陸上部に入ると時間の余裕がなくなってしまい、おばちゃんの家に行くことがなくなりました。会わない時間が長くなればなるほど話しづらくなってしまって、それから25年間も疎遠になってしまいました。本当に情けないことです。

しかし、今年観光大使に就任することが決まって、真っ先に私の頭をよぎったのはおばちゃんのことでした。「観光大使の報告」という名目ができた私は、25年ぶりにおばちゃんに電話をかけ、「鴻巣市の観光大使に就任したの!会いに行ってもいい?」と聞いたら、「もう私はおばあちゃんになっちゃって恥ずかしいけれど、ぬか漬けとお茶を用意して待ってるね」と言ってくれて会うことができました。私にとって今年一番嬉しかったことは、間違いなくおばちゃんとの再会です。私専用の湯呑みも大切にとっておいてくれて、美味しいキュウリのぬか漬けをたくさん頬張りました。それから私たちは25年の時を埋めるように怒涛のごとく話をしました。今からが私の孝行のはじまりです。おばちゃんの実家は静岡県富士宮市にある井出牧場(いでぼく)だと話してくれて、「もうおばちゃんはあまり動けないけれど、いつかおばちゃんの実家の牧場に遊びに行ってね」と言ってくれたので、近日中に訪れる予定。またお土産話を持って、おばちゃんに会いにいくために。

四半世紀ぶりの再会!今年一番の幸せな時間。

こういうご時世だからこそ、心の拠り所はとても大切です。皆さんも、周りの素敵な人たちと、素敵な時間をお過ごしくださいね。寂しくなったら劇場へ足を運び、芸能を楽しみませんか?私もおばちゃんみたいな魅力的な人になれるよう日々精進を重ね1つ1つ活弁の舞台に全力を注いでまいります。来年も皆さまとお目にかかれますように。引き続きよろしくお願いいたします。

(月刊浅草・令和4年12月号掲載)

【筆者紹介】
活弁士・麻生子八咫(あそうこやた):父麻生八咫に弟子入りし、10歳の時に浅草木馬亭で活弁士としてデビュー。
活弁は、サイレント映画に語りをつけるライブパフォーマンスです。どうぞよろしくお願いします。

※写真の転載を固く禁じます。

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